稀代の名器を紐解く。センターブロック変遷で追う、Gibson ES-335 のサウンドバリエーション

プレイヤーによって抱くイメージが大きく変わる『ES-335』の秘密。

“Window” or “No Window” だけではないセンターブロック・バリエーション

いつもご愛顧いただき誠にありがとうございます。イシバシ楽器 名古屋栄店 店長 Gibson Custom Authlized Product Specialist 湊 です。

エレキギターらしからぬエレガントなFホールが施され、ロック、ジャズなど幅広く使用されているES-335。

ES-335は私自身数本渡り歩き、現在 1966年製のES-335を所有しており愛して止まないモデルです。

ES-335が生まれたのは1958年。プロトタイプはドットポジションマークにネックバインディングなしで製作。1959年からカタログ掲載され、「ES-335TD」としてネックバインディングの施された高級感あふれる新機種として発売されました。

「ES」は Electric Spanish 、TDは「Thin Body(Thinline)」「Double Pickup」を表す。

ES-335はプレイヤーによって抱くイメージが大きく異なるとても興味深いモデルでもありますが、その秘密は製造年代によって大きく変わる、センターブロック構造の違いにあります。

大きく分けて、センターブロックに開口部がない『No Window』仕様と、センターブロックに開口部のある『Window』仕様に分類されますが、モデルによって微妙に異なるのです。

そこで今回は当店でラインナップしている各年代、各仕様のES-335の中を実際に覗いてみることで、その構造とサウンドの違いを見ていきましょう。

■初年度 1959年の『No Window』センターブロック

Gibson Custom / 1959 ES-335 Dot Reissue VOS Vintage Sunburst

カタログ入りした初年度1959年のES-335のリイシューモデルです。この年は後年のモデルよりピックガードが長く、ブリッジまで伸びていますが、これはピックガードパーツをES-175と共用としたためです。

ブリッジ高調整時に使いづらいとの声があったため、丈の短い専用のピックガードが出来ました。

この長いピックガードは『ロングピックガード』と呼ばれます。後年の専用ピックガードを、区別する意味を込めて『ショートピックガード』と呼びます。

現在のES-335のスタンダードな仕様『スモールブロックポジションマークにWindow Center Block』が完成したのは1963年。初年度はいわゆる「No Window Center Block」仕様です。

こちらの画像はリアピックアップキャビティです。小さなドリル穴のみ開口されており、ピックアップのリード線はここからアッセンブリーに繋がっています。

ドリルで開口した穴よりピックアップの配線を伸ばし、ボディの外でポット、スイッチと結線。Fホールから結線したアッセンブリーを中に入れて製作されます。

センターブロックがソリッド過ぎたためか、当時はFホールをあしらった見た目にも関わらずフルアコなどに見られるエアー感がないじゃないか、という声もユーザーから上がっていたようですね。

実際かなりソリッドな鳴り方で、箱物ながらハードロック的な刻みも出来てしまうくらいタイトです。

フロントピックアップキャビティからはディープジョイント(ロングテノン)が確認出来ます。

こちらは1969年初期までの仕様。サスティンの向上を狙って、など様々言われますが接着時にしっかり固定しネックアングルを正確に出すため、というのが本来の理由です。

治具をつけるための出っ張りで、その後接着剤や技術向上で不要になり廃止されました。

■1961年 『No Window』 センターブロック

Gibson Custom / Murphy Lab 1961 ES-335 Heavy Aged Sixties Cherry

61年モデルは59タイプのボディながら『ショートピックガード』仕様、ドットポジションマークながらも薄めの『SlimTaper 60s C』シェイプのネックを採用したモデルです。

パッと見の印象を決めるカッタウェイ形状は『ミッキーマウス・イヤー』仕様となっています。

こちらも1959年のものと同じく「No Window Center Block」仕様

1959年と1961年の仕様の違いとしてはネックシェイプが挙げられます。

1960年代に入ると『Slim Taper Neck』というネックプロファイルに変更が見られ、ネックはやや薄型に変化し握りやすいネックシェイプになっています。

ネックジョイントはこちらもオリジナルと同様のディープジョイント(ロングテノン)となっています。

ブロックポジションマークになったのは1963年からですので、こちらはドットポジションマークとなっています。

前回の記事、「Gibson Custom Shop Murphy Lab が完成させた最後の1ピース」にてお話させていただきました「何が音に影響するかは正直分からない。だから全て同じにしてみるんだ」というこだわりがここにも見て取れます。

弾いたときの「このギターは他のものとは何か違う!」という感覚はこういった細部の違いの集積で生まれているのだと思います。

■1961年仕様にも Window センターブロック

Gibson Custom / 1961 ES-335 Reissue VOS Vintage Burst

こちらはヒストリックリイシューモデルの1961年モデルです。

こちらのモデルはMurphy Lab 1961 ES-335 と同年度のリイシューですが、Window Center Block 仕様となっています。後述するレギュラーモデルより少し大きめに開口されたウィンドウが、エアー感を演出します。

1961年モデルながらWindow Center Block 仕様なのは、1963年までの過渡期の仕様という位置づけかと思われます。過去ディーラーオーダーで製作した同年度モデルでもこのWindows Center Block が採用されていました。

こちらも、ネックジョイントはオリジナルと同様のディープジョイント(ロングテノン)となっています。

■1963年の Window センターブロック を引き継ぐ現行モデル

Gibson USA / ES-335 Sixties Cherry

さて今度は現行モデルであり2023年製のGison USA レギュラーラインのES-335です。

マイルストーンとなった1963年製の仕様に倣い、リアピックアップキャビティの脇にガッツリ穴が空いており、『Window Center Block』仕様となっています。

先程の1961 ES-335 Reissue VOS Vintage Burst より少し開口部が狭いようですが、様々なジャンルに対応出来、プレイヤーが求めるセミアコサウンドに広く応えられるようバランスが取られているのかもしれません。

NO Window から Window センターブロックへの変更という内部のマイナーチェンジですが、1964年以降の上位モデル、ES-345など大掛かりな配線をインストール出来るようにしたと思われ、その後の335サウンドの要となっています。

結線後ここからアッセンブリーをボディ内にインストールします。私も当時自分の愛機を何度かPOT交換などのために出し入れしましたが、このくらいの大きさがあればそれほど難しくありません。

作業効率もさることながら、ブリッジ直下に空間が生まれることで程よいエアー感が生まれ、ルックスに違わぬハコモノサウンドと、オールマイティさを兼ね備えた仕様です。

フロントピックアップキャビティはこの様になっております。Gibson 公式のスペックシートにもネックジョイントについての記載はないのですが、通常のショートテノンではありません。

隙間なくはめ込まれており側面が確認出来ませんが、タイトに組み込まれています。

■1960年代後半のエアー感溢れるセンターブロック

Gibson ES-335TD Sunburst 1966-69

さてここからはヴィンテージです。シリアルNoから66-69年製と思われます。カラマズーファクトリー製。

カッタウェイホーン部の形状ですが、『ミッキーマウスイヤー』と呼ばれた1963年までの形状と違い、1964年以降はこの様にスマートなホーンに変更されています。ブランコテールピース仕様ですので、サドルはナイロンとなっております。

私の愛用している335もほぼ同年代でブランコテイルピース仕様なのですが、ブラスサドルに交換してみたところ、ブリッジ-ブランコテイルピース間の弦が共振してしまい、あまり良いサウンドではありませんでした。

ナイロンサドルですとそういった共振は抑えられるので、この仕様はそういった狙いかと思われます。

1960年代前半のものはリアピックアップキャビティ部の半分くらいのスペースの開口でしたが、こちらはリアピックアップ直下は全て、フロントピックアップ方向にも渡ってスペースが開けられています。

フロント側にかなり奥行きのあるウインドウで、リアPUとフロントPUのちょうど中間あたりまでスペースがあります。

このあたりの年代のES-335はブランコテイルピースとの相乗効果で、60年代前半のものとは一線を画すナチュラルなエアー感が魅力です。

ナット幅は40mmの『ナローネック』と呼ばれる仕様で、握り込んで親指を使用したボイシングのコードプレイなどを多様するジャズプレイヤーに人気の年代です。

ネックジョイントはディープジョイントとなっております。ベロ部分の形状が現在のものと少し違うようですが、こちらの方が弦振動の伝達効率は良さそうです。

ナローネックらしいまとまりのある鳴り方をしますので、エアー感がありながら存在感のあるサウンドです。

これがナンバードPAFと呼ばれるピックアップです。PAFとはピックアップ裏面に貼られたデカールに記された『Patent Applied For』(特許出願中の意味)から、ギタープレイヤーが愛称として呼び始めGibsonのオリジナルハムバッカーを指す呼び名として定着しました。

Gibsonからハムバッカー搭載ギターがリリースされた1957年当時はまだ特許出願中でしたが、この頃には特許出願が受理され特許番号が記されています。

■1970年代初頭の大きな開口の Window センターブロック

Gibson 1970~1972 ES-335TD Sunburst

シリアルが消えかかっているものの1970~1972年製と思われます。こちらもカラマズーファクトリー製。この時期特有のサンバーストが魅力的です。

こちらは、センターブロックを支えるスノコまでかなり思い切ってWindow が開口されています。

こちらもリアピックアップ直下は全て、フロントピックアップ方向にも渡ってスペースが開けられています。1968年からレスポールの再生産が始まり、サウンドキャラクターを分ける意味もあったのかもしれません。

2010年代のコンテンポラリー・ジャズの若手ギタリストなどがこの辺りの機種を使っていたのを良く見かけましたが、この構造がジャズ的なエアー感とマッチしたのでしょうか。

確かにハコモノ特有のエアー感とルーズさを色濃く持っています。そのゆらぎのあるサウンドが気持ち良いですね。

フロントピックアップキャビティです。ロングテノンの出っ張りはなく、ショートテノン仕様となっています。

■1979年最終期のセンターブロックも同じく大きな開口部

Gibson ES-335TD Wine Red 1979 【S/N 70119045】

次は1970年代末期、私と同い年の1979年製です。

こちらもカラマズーファクトリー製。ネックはメイプル3pcsで、大きめのボリュートとラージヘッドが特徴です。

こちらも変わらずリアピックアップ直下は全て、フロントピックアップ方向にも渡ってスペースが開けられています。

私自身の好みとしては、ジャズやブルースの中でもちょっと泥臭いサウンドが好みですので、このあたりのWindow のサウンドはかなり好きです。

フロントピックアップキャビティです。こちらも形状は異なりますがベロが出ています。

旧来のディープジョイント(ロングテノン)ではないですが、Gibson のギター製作に対する試行錯誤が見えてくる様です。

プレイヤーそれぞれに抱く『理想の335サウンド』を求めて

いかがでしたでしょうか。なかなかまとめて見られないES-335 のセンターブロック変遷を見てみました。

センターブロックの違いは同じ335でもサウンドが違う、という秘密の大きな要素ではないかと思います。

お店で試しに弾いてみても「あれ、何か違うな…」と思った方は、この年代に応じたセンターブロック構造の違いを感じたのかもしれません。

あなたの鳴らしたい音はどんな音でしょう。あなたのヒーローはどんなアーティストでしょうか。

プレイヤーそれぞれに理想の335サウンドがあり、その多様性がES-335を稀代の名器たらしめているのです。

イシバシ楽器 名古屋栄店 ではGibson セミアコもしっかり展示しております。ぜひ店頭でお試しください。

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