セミアコを嗜む。ー ソリッドボディとは異なる余韻に酔う

チャレンジャーだったエレキギターが覇権を握るまで。

いつもご愛顧いただき誠にありがとうございます。イシバシ楽器 名古屋栄店 店長 湊 です。

みなさんは『セミアコ(セミ・アコースティック)ギター』と聞くとどんなイメージをお持ちでしょうか。

どことなくジャズやブルースなど、大人の音楽のイメージを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

しかしながら、セミアコはジャズやブルースのみならずファンク、ロック、ソウルなど色々なジャンルで使用されており、どういった用途や音楽的志向で選べばいいのか悩むところ。

そこで今回は、セミアコの成り立ちを追いかけながら、その魅力と楽しみ方をご案内させていただきます。

エレキギター黄金期の到来と様々な挑戦

『セミ・アコースティック』で従来のプレイヤーへの普及を目指す

セミ・アコースティックギターとは何でしょうか。『Semi (セミ)』とは日本語では『半分』や『部分的』という意味です。つまり『アコギに近い構造』という意味になりますが、どういった部分が近いのでしょうか。

1958年にGibsonより発売されたES-335がセミアコの代表機種ですが、『Thin Body (薄いボディ)』『Double Pickup』がセールスポイントだったことからわかるように、それまでのエレキギターはピックギターなどから派生した『フルアコ』と呼ばれるアーチトップ、アコースティック構造のギターが主流でした。

アコースティック構造とは、木板を『トップ』『サイド』『バック』と箱状に張り合わせ、箱の音響(アコースティック)で発音する構造です。ブランコ状の『トラピーズテイルピース』やボディトップに固定されていないブリッジなどが特徴です。

Gibson の黄金期を作った テッド・マッカーティ

ES-335、セミアコの登場の前にレスポールやテレキャスター、ストラトキャスターなどのソリッドボディ(中空のない固体状のもの)が相次いでリリースされています。

Gibson社は同時期にデザイナーズモデルと呼ばれる『フライングV』『エクスプローラー』など奇抜なシェイプのソリッドギターも開発しており現在では大変魅力的なモデルと認知されていますが、どれも今までの常識を覆す斬新なデザインでした。

1958年に発売されたExplorer

一方セミアコ構造を持つESモデルは、従来のギタープレイヤーにも受け入れやすく、なおかつ普及していったアンプでの音量増幅を前提としたエレクトリックモデルを目指したものと思われます。

エレキギターはあらゆる方向にデザイン的模索を続けていたわけです。レスポールは1960年を最後に一度生産完了するものの、ES-335はその後もマイナーチェンジを経ながら販売され続けたことから、この方向性は多くのプレイヤーに受け入れられたと言っていいでしょう。

では、セミアコには具体的にアコースティック構造からどういった対策を施されたのか見て行きましょう。

アコースティック構造の弱点

ボディ共振によるハウリングとそれに伴う音量制限

アコースティック構造の弱点は、まさに『音響的である』その構造にあります。箱状のボディがアンプから出力された音にも反応し共振を始め、ハウリングと呼ばれる制御不能の状態にしばしば陥ります。

そのためアンプの出力に余裕があってもハウリングしないように音量に制限が出来てしまうのが、アコースティック構造の弱点です。

50年代当時はまだまだ管楽器やピアノが音楽の主役であり、音量制限の壁を超えることは、エレキギターが音楽的にも商業的にも主役になるための絶対条件でした。エレキギターはまだまだ新参者でチャレンジャーだったのです。

音量制限の壁を乗り越えるため、ボディの共振対策として、『トップ』『サイド』『バック』のアコースティック構造のボディに、『センターブロック』と呼ばれるブロック状の木材を入れ込み、ボディの共振を抑える構造が考えられました。このことから『セミ・アコースティック』と呼ばれます。

センターブロックについては以前の記事『稀代の名器を紐解く。センターブロック変遷で追う、Gibson ES-335 のサウンドバリエーション』をご覧頂ければと思います。

センターブロックがあることで、それまで主流だったトラピーズテイルピースからレスポールなどに見られるストップテイルピースに、ブリッジもABR-1を使用しボディに固定することが可能になり、他ソリッドボディのモデルともパーツ共有が実現しました。

セミ・アコースティック構造がもたらしたもの

ハウリング対策されたボディ。セミアコサウンドの特性

よく『セミアコってハウリングが起きますよね』、とお客様に質問されることがありますが、セミアコ構造のギターは本来ハウリング対策の施されたモデルですので、ソリッドボディのものと比べてハウリングに特別弱いということはありません。

現在の音楽シーンでは、メタルなどかなりハイゲインなサウンドを用いたジャンルがありますが、こういったジャンルに於いても使用されることもあります。

実際私もセッションライブにおいてメタル系の曲を弾かなければならないことがあり、その時持っていたハムバッカー搭載ギターがGibson ES-335 のみだったため、ES-335にてセッションに臨みました。

会場も大きくかなりの音量での使用でしたが、サウンドのフィット感はともかくハウリングに関しては問題なく使用出来ました。

サウンドに関しては、他の記事で詳しく解説しておりますソリッドギターのレスポールやストラトと比べて、中空があるボディ構造とアコースティック的な音響特性由来の倍音が多く、クリーンやクランチなどシンプルなサウンドでも存在感があり、アンサンブルの隙間を埋めてくれるレンジの広さが挙げられます。

バンド構成がシンプルな場合やソロギターなど音色に広がりが求められるジャンルやプレイなどによりフィットします。

逆にアコースティック的な部分がサウンドに余韻を産んでしまうため、タイトな休符表現などが求められるスピードが早くキメが多い楽曲は少し苦手ですが、特性を逆手に取って、そういったジャンルでもワイルドさを加えるためチョイスするという使い方もあります。

主旋律楽器としての演奏可能音域の拡大

音量的制限の壁を超えたことから、アコースティックギターでは音量が得られなかった高音域での演奏も可能になり、演奏可能音域、つまりフレットも22フレットまで広がりました。それに伴って採用されたダブルカッタウェイ仕様がハイポジションでの演奏性の高さをもたらし、より多彩な音楽的表現を可能にしています。

実際に他のソリッドギターモデルと比較してもかなり弾きやすく、座って抱えるのにちょうどバランスの良いサイズ感のため、リラックスしてプレイすることが可能です。

アコースティック的特性も相まって、自宅で爪弾く楽しみ方にもフィットしますので、バンド活動をされていない方にもおすすめ出来るモデルです。

過去と現在をつなぐ、優美なデザインとサウンドを

いかがでしたでしょうか。どことなくクラシックなルックスで、難しい楽器というイメージもあるセミアコ。

斬新で革命的な存在だったエレキギターですが、革新的なものと過去のギターの楽器的優美さやアコースティック的な部分を併せ持つよう、生み出されたのが『セミアコ』というエレキギターなのです。

現在ではさまざまなメーカーからリリースされているセミアコ。プライスレンジも非常に幅広く、多くのプレイヤーに是非手にとって頂きたいモデルです。今回の記事で、セミアコに興味を持って頂けましたら幸いです。

→関連記事『稀代の名器を紐解く。センターブロック変遷で追う、Gibson ES-335 のサウンドバリエーション』

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最後におすすめのセミアコをご紹介させていただきます。

■Gibson Custom / Historic Collection 1961 ES-335 Reissue VOS Sixties Cherry

61年モデルは59タイプのボディ、ドットポジションマークながらも薄めの『SlimTaper 60s C』シェイプのネックを採用したモデル。パッと見の印象を決めるカッタウェイ形状は『ミッキーマウス・イヤー』仕様。

またサウンドを決めるメイプルのリアPU下のセンターブロックにはキャビティがあり、59タイプのドリル穴タイプと比較するエアー感増す傾向にあります。またその仕上げはVOSとしており、マーフィーラボによるエイジングはされておらずその結果価格に反映され、我々プレイヤーの手に届きやすくなっている点は見逃せません!ペグにはクルーソン2コブ・1列刻印仕様を採用しておりディテールを追及しております。

ネックシェイプは比較的薄めの『SlimTaper 60s C』シェイプのネックを採用。61年仕様らしく全体的にスッキリと仕上げられクセは少な目で多くのプレイヤーに受け入れられるはずです

■Epiphone by Gibson / Inspired by Gibson ES-335 Vintage Sunburst

1958年の誕生以来60年以上に渡って多くのギタリストを魅了し続けてきたセミアコの代名詞であるES335のエピフォンバージョン。

メイプルボディ(合板)、ミディアムスケールのマホガニーNeck、NuBoneナット、クルーソンタイプペグ、CTSポット、EpiphoneオリジナルのLockToneブリッジとテールピース、カラマズーヘッドストックを採用。

ピックアップはAlnico Classic PROハムバッカーを2基マウントし、
JAZZやSoulだけでなくPOPSなどでもお使いいただけるモデルです。

■Gibson Custom / 1964 ES-335 Reissue VOS Candy Apple Blue w/Bigsby

ブロックポジションマークに、『64 ES-335』をベースとし、レアなキャンディ・アップル・ブルーカラーにビグスビーを採用したクールな限定モデル。

パッと見の印象を決めるカッタウェイ形状は64年タイプのシャープなカッタウェイホーンタイプ。またサウンドを決めるメイプルのセンターブロックは1弦側部分のみくり貫かれた仕様で軽快なサウンドの一つの要因となっております。59年タイプのソリッドなものと比べると絶妙なエアー感や倍音でワイルドに掻き鳴らすと素直にカッコイイです。また最大の特徴であるキャンディ・アップル・ブルーカラーは、パッと見、角度や光の当たり方で『パープル?!ブラック?!』にもみえるナイスカラー。過去にあまり見られないカラーリングは目立つこと間違いありません。また335らしくシンプルな装飾に留められており洗練された男の道具といった印象を演出しております。

ネックシェイプはヴィンテージ実器からのスキャン・データに基づいた『Authentic ’64 Medium C-Shape』としており、全体的にスッキリとしたタイプ。クセは少な目で多くのプレイヤーに受け入れられるはずの仕様です。

店舗情報

イシバシ楽器名古屋栄店

NAGOYA SAKAE STORE

〒460-0008

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