開発史から読み解くエレクトリック・ベースの2大定番モデルの魅力と違い
燦然と君臨する2大エレクトリック・ベースモデルの違いとは
いつもご愛顧いただき誠にありがとうございます。イシバシ楽器 名古屋栄店 店長 湊 です。
ポピュラーミュージックのみならず、広く様々なジャンルも使用されるエレクトリックベース。

今もなお定番の座を守り続け、燦然と君臨する2大モデルといえば Fender 社のリリースした『Jazz Bass(ジャズ・ベース)』と『Precision Bass(プレシジョン・ベース)』でしょう。
どんなベースプレイヤーでも1本は持っておきたいと言われる2大名器ですが、どういった違いや特徴があるのかを知った上で触れて頂くことで、よりそれぞれの魅力を感じていただけるのではないかと思います。開発史を追いかけながら、それぞれ見ていきましょう。
1951年、プレシジョンベース誕生。
2機種の中で、最初に発売されたのはプレシジョン・ベースでした。『Precision』とは『正確な』という意味です。
それまでのベースといえば、コントラバスがその役割を果たしていました。現在でもジャズなどのジャンルでは使用されています。
コントラバスには音程を正確に刻んだフレットがなく、細かな音程はプレイヤーが耳で合わせてプレイしますが、その楽器自体の大きさや、フレットレス楽器ということから、ベースはバンドサウンドの屋台骨ながら豊富な知識と経験が必要なパートでした。

参入障壁を下げ、ベーシストに機動性を与えた初期オリジナル・プレシジョンベース
そういった経緯から Fender 社が1951年に発売したのが、プレシジョン・ベースだったのです。
発売当時のルックスは1949年に先行して開発されていた、テレキャスターのオリジナル『エスクワイヤ』をベースに転化したもので、後年のアップデートされたボディシェイプと区別して『オリジナル・プレシジョンベース』と呼ばれます。

この機種の登場から、Gibson社でもフレットを打たれたエレクトリックベース EB-3 が1953年に、ビートルズのポール・マッカートニー使用のヘフナーベースは1956年に発売されるなど、ベースという楽器は習得しやすい身近なものになり、サイズも縮小されたことでベーシストに機動性を与えました。
アコースティック構造からソリッドボディになったことで音量制限の壁も乗り越え、後の音楽シーンを全く変えてしまったといっても過言ではありません。関連記事『セミアコを嗜む。ー ソリッドボディとは異なる余韻に酔う』
エスクワイヤやテレキャスター同様、非常にシンプルなデザインで、ソリッドボディにブリッジサドルは4弦と3弦、2弦と1弦がそれぞれ共通になっており、ピックアップもエレキギターのシングルコイルを4弦に転用したものになっています。
発売当時はボディコンターがない仕様でしたが、生産後期になるとボディコンターが採用されます。コンターが入ったオリジナル・プレシジョンベースは『The Police』のベーシストで有名なシンガソングライターである Stingが長年愛用しています。
1957年中期からのプレシジョンベース
この様にベースと言う楽器の概念を根底から覆したオリジナル・プレシジョンベースからアップデートがなされ、1957年中期から現在のプレシジョンベースの姿になります。ストラトキャスターなどと同様、当初はアッシュボディ、1957年モデル以降アルダーボディにて製作されています。関連記事『ストラトを嗜む。-使用木材の変遷から見るサウンドバリエーション』

ピックアップは専用の『スプリット・シングルコイル』が採用され、よりパワフルなサウンドに変化を遂げました。低音弦はネック側、高音弦はブリッジ側に配置し各弦のバランスを取っています。

現在のヴィンテージリイシューモデルにはブリッジカバーが付属しているものもありますが、1950年代当時はアンプの発達過程で、十分な低音を再生出来なかったため、スポンジなどをこのカバーに接着しミュートした状態でコントラバスのようなベースサウンドを再現していました。現在のアンプを使用する場合は、カバーやミュートをしなくても問題ありません。
1959年まで写真の様なアノダイズド・アルミニウムピックガードが採用されておりますが、サウンドに明るさを付加する意図があったのかもしれません。非常に高級感あふれる仕上がりです。
さらにブリッジサドルは各弦独立に変更、より精度の高いピッチを得てエレキベースといえばFenderの地位を確立しました。
エレキベースのひとつの完成形。1960年に発売されたジャズベース
1960年にプレシジョンベースの販売で得たフィードバックをもとに改善点を反映したのがジャズベースです。

アシンメトリカル(左右非対称)ボディが目を惹きますね。人間工学的な抱えやすさも変更の要因のひとつですが、プレシジョンベースに見られる高音弦のサスティンが若干弱くなることへの対策として、高音弦側のボディの質量を増すためとも言われています。
ピックアップはプレシジョンベースの『スプリット・シングルコイル』1基からブリッジ寄り、フロント寄りの2基に変更され、集音するサウンドレンジが非常に広くなりました。
それぞれのピックアップにボリュームコントロールが装備され、2つのピックアップのサウンドをブレンドすることで細かなサウンドメイクが可能になっています。

ナット幅も 1.650インチ(42 mm)から1.5インチ (38.1 mm)と細めのネックになり、プレシジョンベースに比べ演奏性が高く、全体的にバランスが整ったエレキベースのひとつの完成形として現在でも多くの派生モデルを産んでいます。
1970年にはアッシュボディに変更

1970年初期にはボディはアッシュボディに変更され、メイプル指板の明るいアタック感とともにスラップ奏法などベース奏法の新しい扉をひらくきっかけとなり、ベースプレイの表現の自由度を押し広げ、多くのベースヒーローを生み出す土壌を作りました。
プレシジョン・ベース、ジャズベースそれぞれの楽しさ
ここまでお話すると、『改良されているならジャズベースの方が優れている』と思われるかもしれません。しかしながらそれぞれに特有の楽しさがあります。
あるベテランのプロベースプレイヤーにお話をお伺いした際に、どちらが楽しいか質問したことがあります。
『ジャズベースは器用で何でも出来るけど、最後にはプレシジョン・ベースに行き着きました。弾くポジションや弾く強さなど、手元のニュアンスで音色が大きく変化するからです。それが何よりも楽しく、ずっと弾いていられます。』
とのことでした。シンプルな1基のピックアップという構造と、高音弦側がやや落ち着いたサウンドはプレイヤーの指に全てを委ねてくれるのですね。
もちろんジャズベースもそういった楽しみはありますが、様々なモデルを知り尽くしたベテランが最後にたどり着いたというのは非常に興味深いお話でした。

この他にも年代によって細かな仕様変更があり、さらに現在では、ジャズベースとプレシジョンベースの両方の特性を盛り込んだ『PJタイプ』と呼ばれるモデルもリリースされており、さらに選択肢の幅は広がっています。
ベースというパートはバンドの求めるサウンドによっても使うモデルが大きく変わるため、選ぶのは個人の好みとは行かないようですが、今回ご紹介させていただいたジャズベースとプレシジョンベースの開発経緯やサウンドの違いをもとにあなたの相棒を選んでいただければ幸いです。
→関連記事『いまさら聞けないジャズベースとプレシジョンベースの違い』
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