イシバシ楽器池袋店店長の納富です。
ギターのエイジドというと今までエレキギターやベースが主でしたが、今回はアコースティックギターをフィーチャーします!
エレキギターやベースでは、塗装だけでなく傷・打痕・パーツのエイジド(ダメージ加工)が施されたモデルは今まで数多くリリースされてきました。
一方アコースティックギターでは、特にTop材のエイジド加工で各ブランドがしのぎを削ってきた印象です。
MartinのVTS(Vintage Tone System)、Gibsonのサーマリーエイジド(Thermally Aged)、ヤマハのA.R.E (Acoustic Resonance Enhancement)などが代表例です。
しかし、ついに!アコギにもエイジド加工(ダメージ加工)が本格化してきました!
MartinとGibson。共にアコギの2大巨頭ともいえるブランドです。
今回はマーティン カスタムショップ製 D-28 Authentic 1937 Aged Guatemalan Rosewood、と
ギブソン カスタムショップ製 Murphy Lab Collection 1942 Banner J-45 Light Aged Vintage Sunburstを例に比較していきたいと思います。
1)Martin / D-28 Authentic 1937 Aged Guatemalan Rosewood
USA ペンシルベニア州ナザレス工場の一角に少数精鋭の職人たちからなるマーティンのカスタムショップがあります。
マーティンのオーセンティックシリーズはカスタムショップによるVintageのレプリカです。
Martin / D-28 Authentic 1937 Aged Guatemalan Rosewoodはマーティンの代表モデルD-28の1937年製を現代に蘇らせた究極の逸品!
1931年に誕生したD-28は当初は12フレットジョイントでボディの体積も大きいものでした。
しかし、1934年からは14フレットジョイントになり、大きなボディの体積がその分削られた形になっています。
今回のモデルは、旧モデル(マダガスカルローズウッドSide/Back仕様)よりもさらにリシェイプされ、よりヴィンテージのボディに近づけた形状になっています!
さらに、ボディ/ネック接合部のダブテイルネックジョイント含む全個所の接着剤には「にかわ」が使用されています!
ボディから見ていきましょう!
Topはヴィンテージマーティンでもお馴染みのアディロンダック・スプルースを使用しています。
※マーティンでは1946年頃からTopがシトカ・スプルースに変わりますが、それまではアディロンダック・スプルースを使用していました。
またTopには、熱を加え木材を乾燥、古化させる手法「VTS(Vintage Tone System)」が施されています。
TopにはVintageマーティンの象徴「ヘリンボーン」トリムを纏っています。
※1947年頃からは白・黒のバインディングになります。
TopブレーシングはフォワードシフトのスキャロップドXブレーシングを採用しています。
※1938-39年頃からはリアシフトのXブレーシングになります。
このブレーシングもVTSが施されたアディロンダック・スプルースを使用しており、カスタムショップの職人が手作業でスキャロップしています。
Side/Backはブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)の代替材として「グアテマラン・ローズウッド」を使用しています。※旧モデルではマダガスカル・ローズウッドを使用していました。
※マーティンでは60年代後半までハカランダを使用していましたが、70年代からはインディアン・ローズウッドに変わります。
このグアテマランローズウッドは、ハカランダに最も近い色調で深みのある低音レスポンスと明るい高音が特徴のマダガスカルローズウッドと同等で、深みのある低音と暖かい倍音が特徴のハカランダにタップ音が非常に近いとマーティン社は捉えているそうです。
このうねった杢目も芸術的で印象深いですね~♪
バックストリップはジグザグ模様を採用しています。※1947年からはチェッカードタイプに変更されます。
Neckは1937年製Vintageを基にした「Authentic 1937」Shapeで、感触はV-Shapeに近い感じです。
ナット幅は1-3/4インチ(約44.5mm)とやや幅広で、ジーニー・マホガニーを使用し、指板はエボニー、25.4″ロングスケールです。
指板上のDiamonds and Squaresインレイはお洒落に輝くアバロンを使用。
そしてこのNeckの中にはスチールTバーロッドが埋め込まれております。(アジャスタブル・トラスロッドではありません)
※1942年頃から1945年頃まで、つまり戦時中は金属不足からスチールTバーロッドからエボニーロッドに変更され、戦後またスチールTバーロッドに戻ります。
ヘッドは当時の特徴であるやや左右が角ばった形状になっており、Topプレートはもちろんグアテマラン・ローズウッドで、ペグはAged加工されたWaverly Nickel Open Backを装着。
他、エイジドの詳細画像はこちら!
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2)Gibson / Custom Shop Murphy Lab Collection 1942 Banner J-45 Light Aged Vintage Sunburst
USA モンタナ工場に新たに設置されたカスタムショップがあります。
こちらも少数精鋭の職人(4名程)からなり、主にヒストリックコレクションやマーフィーラボを担当しています。(塗装・エイジング)
その昔、マスタールシアーのレン・ファーガソンが在籍していたときもカスタムショップはありましたが、彼が抜けてからはレギュラーラインとは違うモデル(限定モデルやディーラーオーダーモデルなど)を考案するチームとしてカスタムショップという名が使われてきました。
近年では、モンタナ工場でのカスタムショップが確立され、ついにアコースティックギターでもマーフィーラボが登場!
ナッシュビルにあるギブソン カスタムショップでも有名なマーフィーラボ。
何十年にも及ぶトム・マーフィーのヴィンテージギター研究の成果により、2年の研究開発期間を経てモンタナでもアコースティックのマーフィーラボ製品が2023年9月にリリースされました。
以前からGibson社にはエイジドのアコースティックを要望しておりましたが、ついに実現!
全てのマーフィーラボ・モンタナアコ―スティック製品はマーフィーラボ専任のルシアーにより塗装が施されています。
マーフィー・ラボ・アコ―スティックの塗装(ペイント)工程は通常品の場合と異なり、バーストフィニッシュのエッジで起こる酸化した状態を再現するプロセスが必要となります。
ヴィンテージギブソン期に使用されていたアニリンダイ(aniline dye)染料のフィラー(目止め剤)によるカラーの再現で、1942 Banner J-45 Light Agedについては、実際にアニリンダイを使用しており、現在アニリンダイを使用しているモンタナ唯一の製品です。
マーフィーラボ製品にのみ使用されるマーフィー・ラッカーは信じられないほどに硬質なため、通常のソフトラッカーにみられる鳴りの減衰とは無縁でクリスピーで歯切れ良いトーンになります。
それではこちらもボディから見ていきましょう!
Topは戦前のヴィンテージギブソンでもお馴染みのアディロンダック・レッドスプルースを使用しています。
また、Topには「Thermally Aged(サーマリーエイジド)」加工が施されています。
このサーマリーエイジドとは・・・
木材の経年変化時の特徴、木部内部の油分が抜ける状態、材自体が高質化する状態を再現しています。
これはモンタナディヴィジョンとミネソタの大学との共同研究を経て、50年間程度経過したウッドのコンディションを再現しています。
摂氏160度の特別な窯のなかで、低酸素で圧力を加えながら含水率をコントロールしながらウッドを乾燥させていき、材の細胞レベルの成分も変化させるというプロセスです。
もともとは家具業界やホーム業界で木材の強度向上のため、形状の経年変化を起きにくくするため導入されていた技術ですが、これをギターのトップ材のサウンド向上のために転用したものです。
サウンドホールには7plyの1Ringロゼッタを纏っており、これは1942~45年頃までの仕様です。
ピックガードは1955年頃まで続いていたティアドロップで、ブリッジは1940年代まで用いられてきたレクタンギュラーブリッジ&ロングサドル仕様です。
Topブレーシングは、ニカワ接着のアディロンダック・レッドスプルース材のハンド・スキャロップドXブレーシングです。
ギブソンでは1950年代半ばまでスキャロップドXブレーシングが採用され、以降はノンスキャロップ仕様になっていきます。
Side/Backはもちろんマホガニーを使用。
Neckは1940年代当初は丸太のような極太ネックグリップでしたが、今回のマーフィーラボではそれは現代の需要に即していないことから、若干スリム化し、43.8mmほどのナット幅での仕様となっています。ちなみにVintageではナット幅は45mm前後!
マホガニーNeckに貼られたローズウッド指板は19フレット仕様です。
※1950年代半ばから現代と同じく20フレット仕様に変わっていきます。
ヘッドはもちろんプリウォー・スクリプトロゴと、バナーロゴを採用し、ペグは3連オープンバックで、Aged加工が施されています。※1946年頃までの仕様です。
※本モデルは1952年頃までの仕様のテーパードヘッドではありません。
他、エイジドの詳細画像はこちら!
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いかがでしたでしょうか?
マーティンはローズウッドSide/Back、ギブソンはマホガニーSide/Backが代表的なスペック(もちろんそれ以外も多数存在していますが)です。
ローズウッドは低音と高音、マホガニーは中域が特徴的と言われますが、ここまで来るとそれでは言い表すことができないぐらいのサウンドを感じられます。
是非ご検討のお客様は、イシバシ楽器池袋店でこの究極の逸品を体感してくださいませ。
皆様のご来店心よりお待ち申し上げております。