ストラトを嗜む。Vol.3 構造が生むトーンバリエーションを操る。

設計者の意図を超えた、「倍音構成のヴァリエーション」をコントロールする。

いつもご愛顧いただき誠にありがとうございます。イシバシ楽器 名古屋栄店 湊 です。『レスポールを嗜む。』に続きお送りしております『ストラトを嗜む。』も第3回となりました。

ストラトキャスターはレスポールと肩を並べる定番モデルですが、設計コンセプトや構造に大きな違いがあります。

それは『多くスクリュー(ネジ)が多用され、トレモロ・ユニットという可動部があり、その他構成パーツが多い』ことが挙げられます。

Gibson社が楽器製作での木工にプライドを持ってレスポールを生み出しましたが、Fender社の生産時の合理性の追求や、アーティストの要望に寄り添いつづけた『アーティストという天使に翼を与える』というコンセプトがストラトキャスターを生み出しました。

Fender 創始者 レオ・フェンダー

ストラトキャスターは多くのビスを使い組み立てられ、シンクロナイズド・トレモロ・ユニット(アームユニット)を搭載することで、多くのセッティングバリエーションを持っており、パーツの付け替えなども比較的容易で、プレイヤーの求めるトーンに積極的に近づけることが出来ます。

そこで今回はストラトキャスターのセッティングにフォーカスしてその魅力をご案内いたします。

弦振動のエネルギーが音になる仕組み

エレキギターの発音プロセスと、音色を決める倍音

ストラトキャスターのセッティングをはじめるにあたり、まず楽器の音色とは何かを考える必要があります。

ギターの場合、プレイヤーのピッキングにより弦振動が生まれ、そのエネルギーがネックやボディ、パーツ、弦の復元力などにより消費され発音するのがギターの発音サイクルです。

この際、演奏している音程を基準に様々な音程がなっており、これを『倍音』と呼びます。そして、その構成をさして『倍音構成』と呼びます。

このどこでどう弦振動エネルギーが消費されるのか、がストラトキャスターのみならずエレキギターをセッティングする基本となります。

アタックとサスティンの組み合わせで生まれる音色

音色を左右する一瞬『アタック』

弦振動エネルギーを消費し発音する、このギターの発音プロセスは大きく分けて2種類のプロセスに分類出来ます。まず発音の始まりが『アタック』。すぺての発音プロセスの最初の一瞬にはなりますが、非常に重要な部分です。

ある研究で、様々な楽器のアタック音や発音時の音を消したサウンドサンプルをランダムにブラインドテストしたところ、全く何の楽器か分からなかった、という実験結果もあるほどです。

『サスティン』での倍音構成変化のグラデーション

狙うサウンドで変わる、理想の倍音構成

アタックの直後から、エレキギターを構成する様々な部分が弦振動エネルギーを音に変換し、全て消費すると発音は止まりますが、弦振動エネルギーの消費に伴い、様々になっていた倍音構成も変化していきます。

この時の倍音構成の変化のグラデーションがサウンド全体の印象を決めますが、倍音が多くなればなるほど全体の音像は不明瞭な印象になります。

またオーバードライブ、ディストーションサウンドで演奏する際は倍音構成をさらに増幅するため、シンプルな倍音構成を目指すセッティングが求められます。

さて、目指すトーンを手に入れるには、ストラトキャスターはどこをどう調整するべきでしょうか。

トーンを決めるブリッジサドルとトレモロセッティング

『フローティング』か、『ベタ付け』かだけではないトレモロセッティング

アタックの部分に関わるパーツは実はあまり多くなく、ブリッジ周りに集約されます。ストラトキャスターはシンクロナイズド・トレモロを搭載していますが、ブリッジサドルを支えるイモネジがボディ面に対してほぼ垂直になるよう設計されています。

この手前をねじ止めされたブリッジ基部から、スチールブロックがボディを貫いており、スプリングでボディに固定されています。

フローティング状態のトレモロユニット。サドル部はベント・スティールサドル。

シンクロナイズド・トレモロは弦の張力とバックキャビティ内のスプリングでバランスを取り浮いている状態『フローティング』が元々の設計です。このことで少しアタックのトレブリーさが押さえられ、粘りのあるサウンドになります。

フローティング状態では弦振動と共にスプリングも振動するため、豊かなスプリング由来の倍音も期待出来ます。現代のスプリングは復元力が非常に強くなっておりますが、開発された1950年代では今ほど強いスプリングでは無かったため5本のスプリングが掛けられるように設計されています。

Raw Vintage / Tremolo Springs RVTS-1

リプレイスメントパーツでヴィンテージスプリングを再現したものなども出ていますが、豊かな倍音とサウンドのコシを求める場合は交換してみるのも面白いと思います。

私はクリーン~クランチまでのサウンドでプレイすることが多いため、スプリングはこのヴィンテージを再現したものを5本掛けています。

倍音構成が複雑になってくると音像がボヤける傾向にあるので、もっと音をソリッドにしたい場合は、ハンガープレートのアンカーボルトを締め、ブリッジ基部がボディに密着する『ベタ付け』セッティングにします。スプリングの復元力が強い加工されたスプリングなども発売されています。

アタックの瞬間に影響があるのはブリッジサドルになりますが、機種によってはベントスティールサドル、ブロックサドルと種類が変わります。

金属的な倍音が出やすいのはベントスティールサドル、ストレートに力を伝えるのはブロックサドルになります。

かなり多くのリプレイスメントパーツが様々なメーカーから発売されていますので、好みに応じて交換する、というのも面白いかもしれません。USA & Mexicoモデルはインチ規格、JAPANモデルはミリ規格と規格が異なるため、注意が必要です。

ネジの締め方でサウンドが変わる

ピックガードマウントスクリュー、ネックジョイントボルトの締め方

ストラトキャスターのみならず、Fenderのエレキギターはピックガードの固定やネックの接合など様々な部分にスクリュー(ネジ)が使われていますが、『あまりきつく締めてはいけない』とよく言われます。

ストラトキャスターは特に電装系をピックガードにマウントしていることからかなり大きなものですが、大きな合成樹脂製の板を木材に密着させ過ぎると、木部の振動を阻害するおそれがあるためです。

共振しない程度に締め込むのがセオリーですが、これを逆手に取って、少しキツめにマウントすることにより、全体のサウンドを引き締めることも出来ます。

ネックジョイントボルトの固定に関しても同じことが言えます。ジョイントプレートが歪むくらい締め込まれたストラトキャスターを目にすることがありますが、確実な固定にそこまで締め込む必要は有りません。

質量の大きなボディとの接合バランスから、このネックジョイントボルトの締め込み方でネックの鳴り方が大きく変わります。

荷重が掛かる重要な部分ですので慎重に作業を行うべき部分ですが、私は4本のボルトのうち、向かって左上のこのボルトで調整します。テストで最もサウンドに変化が見られたからです。僅かずつ、5度に満たないほど微妙な角度で締めたり緩めたりして、好みの鳴り方に合わせます。

この話をするとなかなか信じてもらえないのですが、施工後プレイしていただくと納得していただけることが多いポイントです。また、かなりネックの振動傾向が変わりますので、全体的にサウンドを大きく左右します。

トラスロッドによるネックコンディションも重要

この他にもトラスロッドによるネックコンディション調整などがあります。トラスロッドは弦の張力へのアゲインストとして働いていますので、弦振動により揺れるネックの復元力に関わってきます。

つまり、少しキツめに締めるとより細かく振動し、緩めにすると大きく振動するようになります。微妙な差ですが、聴感上はもちろん、ネックを握った手に感じる振動の仕方がはっきり変わり、全体のトーンを決定付けます。詳しくは『レスポールを嗜む。Vol.2 ヒストリックモデルのセッティング』でも解説していますので御覧ください。

いかがでしたでしょうか。おそらく設計時には意図していなかったであろう様々な要素が、ストラトキャスターの魅力でもあるのです。クルマやバイクなどをイジる様な楽しみ方で、是非あなたのストラトキャスターも理想に近づけてみて下さい。

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