
御茶ノ水本店Harvest Guitarsの白井です。久しぶりの投稿、そして久しぶりのブラジリアン・ローズウッド時代のD-28の入荷です。
マーティン社では1960年代までサイド、バック、指板などに使用されるローズウッド材はブラジル産のもの(ブラジリアン・ローズウッド=ハカランダ)が使用されておりました。しかしながら、ブラジル産のローズウッドはブラジル政府による保護政策がとられ伐採が禁止されたため、1970年からインド産(インディアン・ローズウッド)が使用されるようになりました。その後マーティンはカスタム・モデルなどで再びブラジリアン・ローズウッドの使用を再開させますが、CITESによりブラジリアン・ローズウッドを使用した製品の輸出入が制限されるようになり、それらは新品、中古を問わず年々価格が高騰し続けています。
今回入荷したD-28は1969年製。ブラジリアン・ローズウッドを使用を一旦止めることになった時期の物です。スタイル28は指板、ブリッジにはエボニーが使用されていますが、サイド、バックのほか、ヘッドストック・プレート、ブリッジ・プレートがブラジリアン・ローズウッドです。



1960年代終盤のマーティン製品に使用されたブラジリアン・ローズウッドの中には、材の枯渇のせいか少々残念な木目の個体も見受けられましたが、こちらは比較的整った柾目で、ブラジリアン・ローズウッドらしい色の濃い縞が見られます。
使用感、補修歴が伺えますが、年式を考慮すれば比較的良好なコンディションです。現在市場に流通するアジャスタブル・ロッドが採用される前のマーティン製品の中には、ネックに反りが発生しているにもかかわらず、修理代を節約するために反りを直さず、サドルまたはブリッジの高さ調整で適正弦高を維持させている個体を見かけることがあります。弾きやすさは維持できているのかもしれませんが、適切なテンションが得られず、楽器本来のポテンシャルを引き出せていない物が少なくありません。当個体は弊社のリペア部門にてネックをきちんと調整してあります。アングルを含めて適正な状態です。
また、マイクで集音していた時代は、生音をパワフルに鳴らすため弦高を高めにしていました。言い換えれば、低い弦高で演奏することは想定しない設計だったと言えます。当個体もその例に漏れませんが、12フレットの弦高を6弦側で約2.5mm、1弦側で約1.8mmにセットアップしております。サドルの余裕はさほど残っておりませんが、上述の通りネックをきちんと直してあるので、D-28らしいトルクが損なわれておらず、一定の演奏性も確保いたしました。
肝心な音ですが、ブラジリアン・ローズウッドならではの明瞭なレスポンスと音の甘みを感じさせてくれながら、1970年代のD-28に通じる芯の太さと力強さをも持ち合わせています。ブリッジ・プレートが大型のブラジリアン・ローズウッド、糸巻きがロトマティック、ロッドがスクエアとなっていることが少なからず影響しているのでしょう。音のまとまりの良さはさすがマーティンと思わせてくれます。またリード・ワークにおける音の粘りも秀逸です。より明快なレゾナンスはもう少し時代を遡った個体に譲りますが、パワフルでありながら音が飽和することなく鳴ってくれる安定感が魅力と言えましょう。
お近くにお住まいの方には、ぜひ一度お手にとってお試しいただきたい逸品です。
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