皆様、ギターライフ楽しんでいますでしょうか。イシバシ楽器御茶ノ水本店 店長の居波でございます。
前回のブログにてフェンダー・カスタムショップとは一体どんなブランドなのかをご紹介いたしました。今回はもう少しテーマを絞って、カスタムショップの魅力をご紹介させていただきます。
今回のテーマはずばり「レリックの魅力とは」です。
フェンダー・カスタムショップ製品の大きな特徴の一つでもあるレリックモデル。その魅力を少しでもお伝えできればと思います。
目次
「レリック」とは
フェンダー・カスタムショップでは、ギターやベースにリアルなエイジド(経年劣化)加工を施す技術を「Relic(レリック)」と呼んでいます。レリック加工は新品でありながら、まるで長年にわたって愛用されてきたかのようなヴィンテージ感を再現し、独特の風合いや魅力を楽器に与えるものです。
レリック加工によって仕上げられた製品は、見た目がヴィンテージに近づくだけでなく、演奏時のフィーリングやサウンドにも変化をもたらし、プレイヤーに特別な弾き心地を提供します。この加工はフェンダー・カスタムショップの高い職人技術によって一本一本手作業で仕上げられるため、非常に人気が高く、多くのミュージシャンや愛好家に支持されています。
現在、ヴィンテージ加工は多くのブランドで行われていますが、「Relic(レリック)」という名称はフェンダー社が商標登録しているものです。ギブソンは「エイジド」、Fano Guitarsは「ディストレス」と呼ぶなど、メーカーによって呼称は異なりますが、いずれもヴィンテージフィーリングの再現を目指しています。
レリックのはじまり
フェンダー社のレリックモデルの歴史は、1987年にフェンダー・カスタムショップが設立された時期に始まる「ヴィンテージスペック」に対する多くのリクエストに根差しています。カスタムショップ創立当初から、一般ユーザーやディーラーのニーズに応え、ヴィンテージギターの仕様に忠実な「ワンオフ」モデルが少数生産されていました。
1993年には、フェンダーは「クラシック・シリーズ」を開始し、50年代のテレキャスターや1954年製、1960年製のストラトキャスターなどの代表的なヴィンテージモデルをリリースし、高い人気を得ます。日本市場においてもヴィンテージギターへの関心が高まっていたため、当時の総代理店である山野楽器が「レトロ・スペクティブ・ギアシリーズ」(1994年)を企画。このシリーズは、ヴィンテージらしい経年変化を再現するため、当時のマスタービルダーのアドバイスを受けつつ、色あせたクリーム色のパーツなどを用いるなど、細部までこだわり抜かれたモデルでした。さらに1996年には日本企画第2弾として「マスター・グレードシリーズ」が登場し、ヴィンテージモデルの再現度が一層向上しました。このシリーズではアルダーをブリーチ(漂白)した上でサンバーストに塗装する方法やカスタムカラーの下地にホワイトを吹いてから塗装することによって鮮やかな発色を再現する手法など、当時の製造方法を忠実に再現。また、1956年からフェンダー社でピックアップの作製している伝説のピックアップ職人アビゲイル・イバラ氏も制作に関わり、年代別にピックアップを製作するという拘りが込められました。
そして、それまでのヴィンテージスペックへの市場の人気の高まりや日本企画のアメリカ国内での好評価もあり、1995年のWinter NAMM Showにてレリックモデルの実機個体を展示、翌年96年に「レリックシリーズ」が公式に発表されます。これは単にヴィンテージ仕様にするだけでなく、長年使い込まれたような見た目のリアルな使用感や経年変化を再現することで、まるで過去から蘇ったかのような質感と音色を持つギターを生み出しました。レリック加工には極薄の塗装技術が採用され、ヴィンテージギターのような「枯れたサウンド」も再現されています。
1998年には第2弾の「N.O.S」モデル、1999年には第3弾「クローゼットクラシック」モデルが続き、「N.O.S」「クローゼットクラシック」「レリック」の3種類を合わせた「タイムマシン・シリーズ」が誕生。現在に至るまでフェンダー・カスタムショップの中心的なシリーズとして根強い人気を誇っています。
また、公式のレリックモデル発売前の1996年以前から、アーティスト向けにレリックモデルは製作されていたようで、マスタービルダーのジョン・イングリッシュなどによって手がけられたレリック加工が施された作品も数本、確認されており、その後のレリック技術の発展の先駆けとなりました。
■こぼれ話
当時を知るベテランスタッフに話を聞いてみました!
カスタムショップ製品は90年頃からディーラーによるオーダーが可能でしたが弊社イシバシ楽器もいち早くオーダーを行っていたようです。
そのオーダーにはクラプトンのブラッキーをイメージした57ストラトキャスターやジョージ・ハリスンをイメージしたオールローズテレキャスター等の現在では定番のモデルも含まれており、それらの国内販売が好調であったという事も日本独自の企画を立ち上げる要因の一つになっていたそうなのです。また96年に発売された「レリックシリーズ」に関しても当時、国内販売がされていない中、イシバシ楽器では海外のディーラーから買付を行い、国内販売を行っていたそうです。これが評判を呼び、当時の代理店である山野楽器が本格的に国内導入を決定したという経緯があるようです。
いや~カスタムショップの発展には日本が、いやイシバシ楽器が大きく関わっていたんですね~!!・・・すみません、自慢させてください(笑)
レリックの種類
フェンダー・カスタムショップのレリック仕上げには、いくつかの種類があり、それぞれ異なるレベルの「経年劣化」が再現されています。
「N.O.S」「クローゼットクラシック」「レリック」の3種類が90年代終盤に発表されましたが、現在までに更に多くのレリックパターンが開発されています。
以下に2024年現在、選択可能なレリックの種類をご紹介します。※画像は生産終了品、過去のモデル、また販売済の製品を含みます。
・N.O.S (New Old Stock)
「New Old Stock」は新品同様の状態を再現した仕上げです。経年変化や使用感が一切なく、あたかも過去の時代に製造された楽器が現在まで完全な状態で保管されていたかのような仕上げです。傷や劣化がなく、ピカピカの仕上がりで、あくまで「新品のヴィンテージ」という位置付けです。
※現在、N.O.S仕様はフェンダー公式ショップ、および限られたディーラーのみでの販売となっています。
・Time Capsule
「Time Capsule」はN.O.Sの派生とも言えるレリックパターンで字のごとく、タイムカプセルから出てきたかのように、極めて良好な状態のヴィンテージギターを再現する仕上げです。ボディやネックは「Flash-Coat Lacquer」仕上げで、時を経たような自然な風合いと深みのある塗装を再現しています。さらに、金属パーツには「Closet Classic」仕上げを採用し、微細なエイジングを加えることで適度にヴィンテージ感を加えています。
※「Flash-Coat Lacquer」とは通常クリアコートを施した後に行うバフ掛け処理を省く事によって長年扱われる事のなかったオリジナル器の風合いをもたせながらも、極めて薄い塗膜にすることで木材が呼吸できる環境を作り、木の鳴りを重視した素晴らしいトーンを狙ったフィニッシュです。
・Closet Classic
「Closet Classic」通称C.Cは長い間ケースの中に入れられ、クローゼット内で保管された、ほとんど使われていないギターのような仕上げです。軽い色あせや適度なクラック(塗装のひび割れ)がある程度で、塗装の剥がれや弾き傷はなく、使用感は少ないですが、微細な経年変化が感じられる仕上がりです。塗装の厚みはN.O.Sと同様です。
・Deluxe Closet Classic
「Deluxe Closet Classic」は良い状態を保つように丁寧に使用はしていたが、経年により変化が進んでしまった状態のギターを再現する仕上げです。Deluxe Closet ClassicではFlash-Coat Lacquerと同様の極薄塗装で仕上げられております。ちなみに以前はLush Closet Classic(LCC)という名称でした。
・Journeyman Relic
「Journeyman Relic」は適度に使用された感じを再現した仕上げです。長年、実際に使用されながらも、きちんとケアされてきたギターを思わせる仕上がりで、全体的に細かな傷や塗装のクラックが見られます。ジャーニーマンとは直訳では「旅人」を意味しますが、1オーナーではなく、様々なプレイヤー間を旅してきたといったイメージでしょうか。2015年頃に登場した比較的新しいレリックパターンですが、程よいエイジングレベルが好評で、現在では一番多く採用されているレリックパターンと言えます。
・Relic
「Relic」は演奏によってしっかり使い込まれたヴィンテージギターのような仕上げです。塗装の剥がれや、ネックやボディに細かい傷が多く見られ、金属部分にも錆や酸化が見られるほか、指板にも色あせや剥がれといった使用感が出ています。ある程度の年数を経て愛用されてきた楽器の風格を再現しています。
・Heavy Relic
「Heavy Relic」は長年のハードな使用を感じさせる仕上げです。塗装の大きな剥がれや深い傷、ネックや指板の色あせや摩耗が激しく、まるで数十年にわたってステージで酷使されたかのような印象を持つレリックパターンです。見た目も触感もリアルなヴィンテージそのものです。
・Super Heavy Relic
「Super Heavy Relic」は上記のHeavy Relicのさらに上をいく激しさでの使用を感じさせる仕上げです。木部が大きく露出し、パーツにも大きな経年変化が見られます。
ひと目見て「只者ではない」と思わせるようなレリックパターンです。
・Ultimate Relic
「Ultimate Relic」Super Heavy Relicはをさらに進化させたもので、ほぼ朽ち果てたような非常に激しく使用されたギターを思わせる仕上げです。深いダメージ加工と広範囲の塗装の剥がれが見られ、本格的に古びた楽器としての重厚な存在感があります。モデルによってピックガードやピックアップカバーなどの破損を再現したモデルも存在します。※Ultimate Relicは現在ではマスタービルダーシリーズのみにオーダーが許可されています。
■レリックパターンの組み合わせ
近年のモデルには複数のレリックパターンを組み合わせた下記のようなモデルも存在します。
・Relic with Closet Classic Hardware:ボディ、ネックはレリックだけど金属パーツはクローゼットクラシック仕様。
・Journeyman Relic with Relic Neck:ボディ、パーツはジャーニーマンレリックだけどネックはレリック(塗装剥がれあり)仕様。
特に金属パーツの激しいレリックは錆を伴うものが多いため、調整し辛いといったデメリットもあります。そんなユーザーの為にパーツのみレリック度合いを抑える選択肢も用意されています。
レリックの方法
フェンダー・カスタムショップのレリック加工は、熟練の職人が手作業で行う特殊なプロセスです。
残念ながらレリック方法についての詳細はすべて非公開につき正確な手法についてはご紹介できません・・・なので私の持っている知識や文献等から推測してご紹介いたします。
”塗装の選択と調整”
レリック加工はヴィンテージのリアルな追求に目的がありますので塗装はやはりオリジナル同様にラッカー塗装が選ばれています。
ラッカーは経年変化しやすく、退色やひび割れが起こりやすい特徴があり、ヴィンテージ感の再現に最適な塗装と言えます。塗装はあえて薄めに施され、長年の使用で徐々に剥がれていくような質感を目指します。また塗装を剥がしたときに見える下地もポイントですので当時の製造方法を忠実に再現しているということも重要です。
※68年以降のモデルはオリジナルと同様にシック・スキンフィニッシュ(下地にポリエステル処理をして、その上から着色(ラッカー)、クリア(ラッカー)塗装を行うというもの。)を採用しています。
”人工的な経年劣化の加工”
塗装が乾いた後、ボディやネックに弾き傷や打痕、色あせ、塗装の剥がれを再現する加工が行われます。ここでは、実際に使い込まれたヴィンテージギターの状態を再現するために様々な道具が使われています。塗装の剥がれには紙やすりや金属ブラシなどを用い丁寧に再現していく手法もあれば、カッターやカミソリといった刃物で細かく計算された位置に傷や剥がれを付ける手法もあります。打痕や弾き傷に関しては鍵の束をぶつける、ベルトのバックルを使って打痕をつけていく等の手法があります。カスタムショップ曰く、”これは誰が弾いて、どうしてこうなったろだろう?”というストーリーを思い描いて作業することが重要でリアリティのあるレリックに繋がるそうです。
”クラック(ひび割れ)の作成”
レリック加工では塗装の剥がれや傷の他にも、塗装表面に微細なクラックを入れることで、温度変化や経年変化によるひび割れを再現しています。この作業では急激な温度変化を人工的に作り出し、塗装が自然にひび割れるように調整しています。有名なのはドライヤーやホットガンでボディを温めて冷却スプレーで一気に冷やすといった手法です。これにより、ヴィンテージ特有の複雑なテクスチャーがギターの表面に現れます。中にはカッターでクラックパターンを作る場合もあるようですが、不自然になりやすいため、あまり使われないようです。
”ハードウェアのエイジング”
ブリッジやペグなどの金属パーツにも、サビや酸化を再現します。これには特殊な薬剤や特殊な方法が使用され、金属が自然に経年変化したような風合いが与えられます。私が過去にファクトリーに見学に行った際には金属パーツを薬剤につけ、その後にドライヤーで一気に熱を加えてくすみや錆を再現している手法や回転する臼の中に砂利と一緒にパーツを入れて傷を再現している手法を行っていました。
”ネックのエイジングと仕上げ”
ネックは演奏時に直接手が触れる部分であるため、特に丁寧にエイジングが施されます。エイジングには、紙やすりやネックのカーブに沿った特殊なやすりを使用し、塗装を薄くしたり磨いたりすることで、滑らかな手触りを作り出し、長年使われてきたかのような自然な摩耗感を再現します。これにより、演奏時のフィーリングが非常に快適になり、速いフレーズやフィンガリングもスムーズに行えるようになります。
メイプル指板のモデルでは、ルーターやドリルを使用して指板上の削れを再現しています。また、ラッカーの変化や黒ずみを再現するために、着色料を布に染み込ませて複数回に分けて染色する「ステインド」手法も用いられています。これにより、ネックの見た目や手触りが一層リアルに仕上げられます。
多くのマスタービルダーは、ネックの加工が最も重要であり、自身の技術を見せる場であると語っています。このプロセスにより、楽器はプレイヤーにとって格別なものとなるのでしょう。
”パーツやピックガードの加工”
ピックガードやノブにもエイジングが施され、表面に細かな傷や変色を加えます。これにより、長年使い込まれたリアルな風合いが生まれます。パーツは製造時から複数の色合いに分けて成形され、さらにスチールウールで細かい擦り傷を再現するなど、細部までリアルなヴィンテージ感を追求しています。「ステインド」手法を用いて焼けや汚れも表現し、全体の仕上がりが自然に見えるよう工夫されています。
フェンダー・カスタムショップのレリック加工は一本一本が手作業で丁寧に加工され、それぞれ異なる表情が生まれることで、特別な“個性”を持つギターに仕上がります。特に、マスタービルダーたちによるレリック加工は最高峰の技術を誇り、他の追随を許しません。さらに、ビルダー同士で技術を共有し、次世代に伝承することで、日々その技術力は向上しています。
レリックによる音質と演奏性の違い
フェンダーカスタムショップのレリック加工は見た目だけの変化ではありません、音や演奏性にも大きな影響を与えています。
レリック加工によりどのような変化が起こるの考察してみましょう。
”塗装の薄さと鳴り”
レリック加工には塗装の「剥がれ」や「薄さ」が伴うことが多く、これによりネック、ボディの木材がより振動しやすくなります。
特に、レリックレベルが大きければ大きいほど塗装は大きく剥がされ、より豊かな共鳴が生まれ、出音が大きく、立ち上がりが良くなる傾向にあります。
”手触りによる演奏性の向上”
レリック加工ではネックの塗装が薄く、滑らかにされていることが多く、演奏時の手の滑りが良くなり、演奏性が向上するといったメリットがあります。この滑りやすいネックにより、速いフレーズやフィンガリングがスムーズになり、結果として良いサウンドに繋がります。
”パーツやハードウェアのエイジングによる音の変化”
ギターの音色や鳴りには、木部だけでなくパーツやハードウェアのエイジングも大きく影響しています。経年変化による酸化やサビがピックアップやブリッジなどの金属部分に現れると、振動の伝わり方が変化し、その微妙なビンテージ感がサウンドに加わります。特にハードウェアが経年により「遊び」が抑制され、一体感が増すことで、ギター全体が「大きな塊」としての一貫した振動を生み出しやすくなるのだと考えます。エイジングを木部に施すだけでなく、金属パーツにも同様のプロセスを行うことが、ヴィンテージギター特有の鳴りを再現するために重要であることは、多くのプレイヤーや製作者が共感するポイントでしょう。このように、ギターの鳴りは多くの要因が重なり合った結果であり、パーツ一つ一つの変化も全体のサウンドに影響を及ぼしていると言えます。
このようにレリック加工が施されたギターは、見た目だけでなくサウンドにもリアルなビンテージ感が加わります。新品のギターにはない独特なトーンとヴィンテージフィーリングを楽しめるのが大きな魅力ですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は「レリックの魅力とは」をテーマに記事を書かせていただきました!皆様にレリックの魅力が少しでも伝われば幸いでございます。
もちろんレリックモデルよりもピカピカのモデルが好き!というお客様も多くいると思いますし、レリックモデルの方が優れているという訳ではございません。
フェンダー・カスタムショップではレリックモデル以外にも多くの魅力的なモデルが多数存在しますので必ず満足のいく1本に出会えることでしょう。
ただヴィンテージギターのサウンドやフィーリングに興味があるようであれば、是非一度はお試しいただきたいと思っています。
イシバシ楽器御茶ノ水本店でも多くのレリックモデルを展示しておりますのでお気軽にお試し下さいませ!!
それでは次回の記事でお会いしましょう。
これであなたもフェンダリアン!!
過去の記事はこちら!
【御茶ノ水本店】フェンダー・カスタムショップとは【Fender Custom Shopブログ#1】
イシバシ楽器御茶ノ水本店FenderCustomShopストックリストより商品ページもご覧いただけます。
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