わからないことは楽器屋さんに聞け!~電子ドラムの進化は止まらない?

今回のテーマは
『エレドラの歴史について』

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今やドラマーのみならず身近な存在の電子ドラム
どのような経緯でここまで普及し、進化してきたのかを分析してみましょう。


■初期の電子ドラム

今でこそ、ドラムの音がする「電子ドラム」ですが、

初期ではどちらかというと「シンセドラム」の要素が強く、
いわゆる「ピューン」とかいう感じのただの電子音という感じ。
今の「ナチュラル」なドラムサウンドとは程遠いものでした。

しかし、そのサウンドの斬新さが受けて、
新たなドラムサウンドとして世間一般に受け入れられていきます。

そのハシリは、1970年代末期アメリカで生まれた「syn-drums」という楽器だったようです。
このサウンドの成功により、80年代に流行する「エレドラ」のサウンドが徐々に浸透していきます。

国内でもいくつかのブランドでこのような「シンセドラム」を開発していたメーカーがあり、
OEMでメジャーなドラムメーカーにも供給していたようです。
そしてのちに一世を風靡するイギリスのシモンズ社も、似たような商品SDS 3を開発していたようです。




この独特のサウンドはYMOやCCBなどを筆頭に当時のテクノポップなどで多用され、
これらのシンセドラムの音を多用した音楽が徐々にメジャー化していき、
80年代サウンドとして皆さんにも印象が強く残っていると思います。

しかしこれらのアイテムは楽器としてはかなり高価ということもあり、
一般的に普及するような存在ではなかったようです。

特にこのイギリスの「SIMMONS」のセットは、
この6角形のパッドの見た目も奇抜で、ライブなどにも取り入れるミュージシャンも非常に多く、
最初に一世を風靡したエレドラといっても過言ではないでしょう。



そんな「SIMMONS」のエレドラがヒットする中、
1980年代中ごろには、国内のドラムメーカーであるタマが TECHSTARというシリーズを、
パールもDRX-1というシリーズで「SIMMONS」のエレドラに対抗しようとしていました。
いまでは到底考えられないハナシですね、、、

それだけ、エレドラの登場は楽器業界に影響力があったんですね。

しかしその頃、現在の2大巨頭とされるローランドとヤマハはというと、、、

ローランドはどちらかというと、、、
「エレドラ」というよりは「リズムマシン」で有名でした。
特にTR-808,909など名器と称されるリズムマシンを世に送り出し、
当時のテクノサウンドの要となっておりました。

現在でもこのサウンドは「レジェンド化」されており、
このサウンドをモチーフにした音色が活用されています。

しかし、いわゆるドラムセットの形をしたものは発売されておらず、、、


ローランドが1985年にOCTAPAD PAD-8で参入、
しかし、これにはこれには音源モジュールは内蔵されず、MIDIコントローラーのみというもの。


その後ようやく音源モジュールDDR-30を装備したα-DRUMを発売するなど、
今でこそ最先端のブランドですが、当時は意外にも後手にまわっていた印象を受けます。


またヤマハもほどなくして電子ドラムセットPMC1を発売したものの、
いずれもあまりメジャーな存在にはなれなかったようである。

このような感じで、国内のドラム・デジタルメーカーともに
まだまだ手さぐりだったような印象を受けてしまいます。

そして、80年代も後半に差し掛かると、一転して世間はバンドブーム。
シンセ的なサウンドよりも「デカい生音」が求められ、
主要生ドラムメーカーはそれぞれ、そのような特性の生ドラムへの開発へと注力していき、
エレドラの販売を一気に終了させてしまいました。

一般ユーザーにとっては「エレドラ」自体がややマイナーな存在になってしまったようです。

しかも、当時のエレドラのパッドは、今の物とは比べ物にならないほどに硬く、
腱鞘炎になってしまったドラマーが多発したとか、、、

この時代のエレドラは家庭向けの練習ツールとしては普及しなかったようです。

しかし、90年代に入り遂に時代は動き出します。

さすがの技術大国日本、世界に通用するどころか、
さらに上を行く製品が続々と登場していきます。



■エレドラ黎明期から一般的な存在に進化



まず、1992年にローランドがTD-7シリーズを発売、
いわゆる電子音の電子ドラムではなく、
生のドラムサウンドを強く意識した製品が発売される。

ヤマハものちのDTXシリーズの前身となるTMXシリーズをほどなく発売した。

しかし、まだまだ家庭向けかというとそうでも無かったようで、
現在の機種に比べると騒音も大きく、また操作もやや難しく、パッドも硬めだったようです。

しかしながら、今や世界的スーパードラマー神保彰氏の影響により、
エレドラの新たなスタイルの確立と、一般ユーザへの浸透が劇的に進みはじめます。
※ちなみに神保氏、80年代のエレドラ黎明期よりヤマハのエレドラ開発に協力していたそうです

1992年の初の自身の教則ビデオでもエレドラ+ドラムトリガーをを使用し、
後々のワンマンオーケストラの元ともなるプレイを披露、
1995年の2作目と共に、エレドラの存在を新しいカタチで再び世に知らしめたのです。



そしてヤマハはその神保氏との開発を進めてきた実績を活かし、
1996に満を持して「DTX」シリーズを発売。これがヒット商品となりました。
価格もおおよそ20万円程度と一気に家庭向けにも普及していきます。

「サイレントセッションドラム」と称されたその電子ドラムは、
神保氏のようなドラムセットと合わせての使用はもちろん、
家庭での練習キットとしても強力なプロモーションがされ、
次第に自宅で叩ける「静かなドラム」として徐々に浸透していきました。

また、ローランドも負けていません、
1997年独自開発のメッシュヘッドを搭載した、TD-10シリーズを発売。






翌98年にキック用メッシュパッドKD-120を発売し、
さらに翌99年にはTD-8を発売、より家庭での練習向けにシフトした商品がリリースされます。


「V-Drums」と呼ばれるこれらのモデルは、
独自のメッシュヘッドをシェルに張った「生ドラム」に近いパッド構造を採用することにより、
静音性とリアルなフィーリングが格段と向上。
一気に家庭での練習ツールとしても真価を発揮していきます。



■一般家庭にも浸透した2000年代

2000年代に入ると、さらにエレドラの勢いは加速、

ヤマハではプロクラスモデルとしてDTXTREMEシリーズを発売、
また、一般向けで発売されたDTXPERSSシリーズでは販売価格がおよそ10万円になり、
練習ツールとして一般向けへの販売が加速していきます。



2005年発売のDTXPLORERシリーズでは販売価格10万円を切り、
一般ユーザー向けの販売がさらに加速、爆発的な人気を誇りました。

一方のローランドも
2001年により廉価盤のTD-6シリーズを発売、
上級機種ではリアルな揺れを実現したVシンバルが搭載されはじめます。


※2001年に発売された初代のTD-6のキット、これにより低価格帯の扉が開かれます。


※Vシンバル搭載のTD-10 Expanded Systemのキット、大型でより生のドラムらしいルックスに

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2004年にはフラッグシップ音源TD-20と共に開閉式ハイハットVH-12が発売されます。
技術的にもますます進歩し、より「生ドラム」に近づいていきます。


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その後販売価格が10万円を切ったTD-3シリーズや、
小型の家庭向け機種HD-1などが発売され、
ヤマハ・ローランドエレドラ戦争とも呼べるほど、
お互いを意識した製品開発が繰り広げられていきました。

この時代が家庭向けの「エレドラ」が確立された世代といえるでしょう。



■さらに進化した2010年代

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2010年にはヤマハの最上級機種900シリーズ発売に合わせ
新たな「シリコン製」パッドが発売され、その後の700/500シリーズにも採用され、
現在のヤマハの電子ドラムの象徴的な存在となっていきます。

このようにメッシュパッドのローランド、シリコンパッドのヤマハといった感じで
2大メーカーの更なる競争が繰り広げられます。

ローランドからは折りたためるよりコンパクトなTD-4KP-Sが発売されるなど、
様々なニーズに合わせた多様な商品ラインナップが急激に増えた時期です。

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また、2012年にはヤマハから販売価格5万円を切ったDTX400シリーズがリリース、
それに対抗するような形でローランドではTD-1Kシリーズが発売されるなど、
低価格帯での新たなラインナップ増加、ライトユーザーへのアプローチなど、
さらにファミリー向けの商品開発が進んだ年代です。

その「家庭向け」にシフトしていく中で避けて通れなかったのが「騒音問題」
日本のような集合住宅が多い環境下では、エレドラでさえ騒音の元になり、
満足に演奏することが出来なかったユーザーが増えたのも事実。

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そんな中、ローランドより防振マットノイズイーターや
静音性の高いキックトリガーKT-10などより「静かな」エレドラの開発も進み、
このような新たな課題にチャレンジしている製品も開発されてきました。

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※本格派の音源・パッド構成ながら、足元の振動を抑えたTD-11KQ-PS


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またその反面、プロクオリティのラインでは2012年にローランドがTD-30シリーズをリリース。
ルックスもサウンドもより「本物のドラム」に近づいた製品が開発されます。


そして昨年発売されたTD-50シリーズでは、
何とスネアのサイズが14インチ、ライドのサイズは18インチまで拡大。

これらのパッドはサイズも含め、
表現力が今までのエレドラと比較すると段違いになります。

情報量の増加により、接続のケーブルもUSBケーブルになるなど、
「生ドラム」に迫るべく、かなり劇的な進化を遂げてきました。

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※生ドラムに装着するタイプのキックトリガーKD-A22

また、生のドラムとの「ハイブリッド化」も進み、
生ドラムのキックに直接装着するKD-A22キックトリガーを発売するなど、
プロクラスとファミリークラスが二極化していた印象も受けます。

低価格帯はよりシンプルに、高価格帯はより本物らしく。
これが2017年現在の傾向といえるでしょう。


そしてこの夏発売予定なのが、ATV社の「aDrums」

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ATVはローランド創業者の故・梯 郁太郎氏が2013年に立ち上げた新ブランドで、
ドラム音源「aD5」は2大ブランドに次ぐ新たな「第3のブランド」として、
その高いクオリティを評価されているブランドです。

今回発売の「aDrums」はまさに見た目は「生ドラム」

「aD5」では他社のパッドを使用する純粋な「音源」のみでしたが、
今回はなんと「シェル」付きのそのまんまドラムセット。

実はわたくしもまだ現物を見ておりません、
どこまで進化するのか電子ドラム、、、


なんとしかし、7/16(日)にSHIBUYA_WESTで

体験イベントが開催されます!!!

【詳細はこちら】

この記事を見て触れてみたくなった方は是非ご参加ください(笑)


生のドラム以上に、技術の進歩によってどんどん新しくなっていくのが電子ドラム。

今回この記事を書いていても、
あー、あんなのあったなぁとか、
あの機種メチャクチャ売れたなぁとか、
色々思い出しながら書いておりました(笑)

今後の進化にまだまだ目が離せない存在です。

それではまた!


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■この記事を書いた人

松岡 武 Takeshi Matsuoka

中学生の頃突然ドラムに目覚め、そのままのテンションで音楽の専門学校に入学。卒業後よりお茶の水イシバシに勤務し13年、2016年6月より渋谷WEST勤務。20代のころはジョン・ボーナムにあこがれすぎて24インチのライドをバカバカ打ち鳴らしてました。豊富な現場経験を生かしたその人に合った楽器のチョイス、チューニングやメンテナンスポリシーで、様々なタイプのドラマーをサポート致します!







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