Harvest Guitarsの白井です。今日は私の得意分野の一つ、スティール・ギターをご紹介いたしましょう。

今回ご紹介するのは、こちらフェンダーのチャンプというモデルです。
まず、フェンダーについて。フェンダーは現在エレキ・ギターの代表的なブランドの一つとして知られていますが、スティール・ギターのメーカーとしてスタートしていました。テレキャスターなど初期のエレキ・ギターの製品には、金属製のブリッジとそのカバー、コントロール・プレートなどに同社のスティール・ギターのデザインの名残があります。ハワイアンの人気に陰りが見えたためギターの生産にシフトしていったのですが、世界で最初にエレキ化したスティール・ギターを発売したリッケンバッカーも同様の歴史を持ちます。ちなみにギブソンは元々マンドリン・メーカーでした。こういった歴史のあるメーカーは、そのときどきの音楽の流行に応じて商品ラインナップを変化させていったのが興味深いですね。
さて本題のチャンプですが、チャンピオンというモデルの後継機種として1955年に販売が開始され1981年まで生産されました。エレキ・ギターのデュオソニックやミュージックマスター同様エントリー・モデルに位置づけられます。フェンダーのスティール・ギターのほとんどの上位機種は2ピックアップでレグ(脚)付きです。しかも本格的なプレイヤーになると8弦や複数のネックが付いたモデルを使用する傾向にありますが、チャンプは6弦、シングル・ネック、1ピックアップというシンプルな仕様で、レグはなく膝の上に乗せて演奏する所謂ラップ・スティールです。上位機種は重量がある分、音の奥行きやより豊かなサスティンを感じさせてくれますが、演奏スタイルによってはチャンプで十分な場合もあります。むしろ、近年ではロックやブルースのスライド演奏にスティール・ギターを使用するギタリストの間では、チャンプのように軽量で取り回しが良く、それでいてヴィンテージらしいサウンドが楽しめる当時のエントリー・モデルの人気が高まっているのです。
フェンダーのスティール・ギターは同社のエレキ・ギター同様ブライトなサウンドが特徴です。当個体は持ち前のブライトさに加え、ヴィンテージらしい甘いレゾナンスをも感じさせてくれます。ポット・デートは1955年と1956年。出荷はおそらく1956年でしょう。まろやかで、ほどよく枯れたトーンが魅力です。使用感や経年による劣化箇所はありますが、まさに長い年月によって熟成されたヴィンテージならではのテイストです。同年代のエレキ・ギターと比較すればお求めやすい価格で、入門者にもお勧めです。
ハワイアン、カントリーはもちろん、セイクリッドから、アメリカーナ、アンビエントまで、時代とともにスティール・ギターの世界はより広がってきています。スティール・ギターにご興味をお持ちの方、このチャンプからその世界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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なお、私自身がスティール・ギタリストです。ご購入の初心者の方には無償にて店頭で簡単なレクチャーをさせていただいております。ご希望の方は事前にHarvest Guitarsの白井までお気軽にご連絡くださいませ。
最後に余談ですが、当時のフェンダーのスティール・ギターには、その製品のレベルに合わせたアンプが用意されていました。アンプのチャンプはまさにこのスティール・ギターのチャンプにマッチさせたアイテムだったのです。プリンストン、デラックスなども同様ですが、いずれもスティール・ギターの生産が終了した後もアンプは生産が継続されました。




白井英一郎:
1960年生まれ。吉田拓郎を聴いてギターを始め、間もなくイーグルスなどのアメリカンロックに傾倒。アコースティック&エレキ・ギターのほかルーツ系の楽器をも弾くマルチプレイヤー。現役の演奏家であり、音楽&楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代の音楽とファッションをこよなく愛し、音楽のあるスローライフを実践するロハスピープル。入門者からベテランの方まで、お客様のライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。2020年11月に定年を迎え、現在は嘱託社員として勤務。