
Harvest Guitarsの白井です。今回はソロ・スタイルのギタリストの間で人気が高いローデンのギターをご紹介いたしましょう。ローデンはイギリスの北アイルランドからアイルランド共和国に工場を移しておりますが、今回ご紹介するのは、北アイルランド時代のO-38というモデルで、弊社がローデンの輸入代理店をしていた時代の物です。何を隠そう、私は90年代半ばから後半にかけてローデン製品の輸入業務を担当しておりました。ギターの説明の前に、ローデンに関するエピソードをご紹介したいと思います。
弊社がローデンを扱い始めたのは、1990年頃です。おそらく、その頃すでにピエール・ベンスーザンやマイケル・ヘッジスはローデンを使っていたでしょう。しかしながら日本では流通しておらず、ほとんど無名のブランドでした。ところが、先日亡くなられたギタリストの徳武弘文さんは既に海外でローデンのギターを入手されていたのです。その当時テレビでオンエアされていた日本たばこの「キース」のCMの演奏は徳武さんによるものでした。徳武さんと親しかった弊社のあるスタッフが、徳武さんに「キース」で使用したギターが何かと尋ねてみたところ、現物を見せていただくことができたのです。それがローデンでした。ちなみに、徳武さんは、1986年から1991年までローデンの工場長をされていた内田光広さんとは旧知の仲だったそうです。
間もなく、ローデンに部品を卸していたある日本の商社から、「ローデンというメーカーが日本で輸入代理店になってくれる会社を探しているのですが、イシバシさん、やってみませんか?」という打診がありました。徳武さんが「キース」で使用したギターがローデンであることを知っていた私達は、二つ返事で扱わせていただくことにしたのです。徳武さんのおかげで代理店をやらせていただくことができたと言って過言ではありません。感謝に堪えません。
後に輸入担当となった私自身もローデンを購入するのですが、第一印象は「繊細な音色を持ちながら大変大きく鳴る」でした。またやや広めのネックが採用されており、ソロ・スタイルのギタリストが好んで使う理由が良く分かりました。伝統的なマーティンやギブソン、新興のテイラーといったアメリカン・ギターとは一線を画していました。私もこのローデンで心機一転、自分が未踏だったDADGADチューニングなどにトライしたものです。
ローデンの創業者ジョージ・ローデンは1988年に財政的な問題から会社を手放しています。経営はLowden Guitar Companyが受け継ぎますが、引き続きジョージはデザインと商標権を保有し、製品の監修もおこないました。弊社が取り扱っていたローデン製品はまさにこの時期の製品です。Lowden Guitar Companyは2003年にジョージとのライセンス契約が終了し、Avalon Guitarsがその北アイルランドの工場を受け継ぎました。一方、ローデンは2004年にGeorge Lowden Guitars Ltd.としてアイルランドの新工場で 再スタートし現在に至ります。
さて、いよいよ本題です。まずO-38の仕様をご説明しましょう。レギュラー・ラインアップの中では最高峰のモデル。アルファベットのOはOriginalの略で、ローデン最初のオリジナル・デザイン。大型のボディ・スタイルを意味します。数字の38は、トップ材がシダー、サイド&バック材がブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)で、ロゼット、ボディの縁取り、指板にアバロンのインレイを施したモデルであることを示します。ちなみにローデンではブラジリアン・ローズウッドをリオと呼んでしました。ローデンはスティール弦のギターに積極的にシダーを使用した最初のメーカーです。シダーの持つ落ち着いたトーンと豊かなレゾナンス、さらに幅広のネックや手のひらでミュートしやすいブリッジの構造が相まって、ソロ・スタイルのギタリストに受け入れられていったと言えるでしょう。






ブラジリアン・ローズウッド・サイド&バックらしい音の輪郭と豊かなレゾナンスを感じさせてくれますが、アメリカン・ギターとは一線を画した落ち着いたトーンがローデンならでは。アバロンの装飾が施されていますが、上品で落ち着いた雰囲気を醸し出しているのもローデンらしいです。
この個体は1994年製、上述の通り、北アイルランドのLowden Guitar Company時代の製品です。当個体には修復歴はございますが、大きく目立つものではなく、弾く喜び、持つ喜びを味あわせてくれる逸品です。値下げをいたしましたので、ブラジリアン・ローズウッドを使用した海外ブランド製品としては比較的リーズナブルなお値段です。かつての担当者として、お勧めの一本です。
ちなみに、ローデンと同郷のシンガー・ソングライター、ポール・ブレイディがこのO-38を演奏しているのを見て、エリック・クラプトンも入手したという逸話があります。もっとも某社とのエンドース契約上、エリックはこのモデルをステージでは使うことができなかったようです。ハワイの故レイモンド・カネもO-38を愛用していました。南国ハワイのミュージシャンが緯度の高いヨーロッパのギターを使うイメージはないかもしれませんが、ローデンはハワイアン・スラック・キー・ギターにも良くマッチします。もちろん、ポール・ブレイディやエリック・クラプトンが使用しているくらいですので、ソロ・スタイル、フィンガースタイル専用のギターというわけではありません。どなたでもお試しいただく価値のあるギターです。お見逃しなく。
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白井英一郎:
1960年生まれ。吉田拓郎を聴いてギターを始め、間もなくイーグルスなどのアメリカンロックに傾倒。アコースティック&エレキ・ギターのほかルーツ系の楽器をも弾くマルチプレイヤー。現役の演奏家であり、音楽&楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970
年代の音楽とファッションをこよなく愛し、音楽のあるスローライフを実践するロハスピープル。入門者からベテランの方まで、お客様のライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。2020年11月に定年を迎え、現在は嘱託社員として勤務。