《懐かしのキーボード/オルガン編》
オルガンの歴史は古く、送風式、パイプオルガンの歴史なども含めると、とても筆
者の手に負えるところではありませんので、今回は主にロック・シーンで活躍した
オルガンを紹介させて頂きます。また、技術の進歩により、単純にオルガンと呼べ
ないものも登場して来ましたが、その辺は筆者の独断で取り上げさせて頂きました。
60〜70年当時、キーボードの世界でピアノと双璧を成していたのがオルガンでした。
ロック・シーンでオルガンと言えば、ローレンス・ハモンド(Laurens Hammond)に
よって製作されたハモンド・オルガンがもっとも有名で、ハモンドと言う名は
会社名で有りながら、オルガンの代名詞にもなっていました。当時
(今も)の有名なバンドであるディープ・パープルのジョン・ロードやELPのキース
・エマーソンらがハモンドオルガンを使用しており、彼らの使っていたハモンドの
B-3、C-3は当時のロックキーボディスト達の憧れの的でした。ハモンドオルガンの
音源はちょっと複雑で、なかなか説明に困ってしまうのですが、極めて簡単にお話
します。発信源は電子的なものではなく、トーン・ホイールと呼ばれるギヤ歯でし
た。そのギヤ歯をモーターで回転させることによって正弦波(サインウェーブ:倍
音を含まないきれいな音=全ての音の基本)の電気信号を得ます(この部分かなり
端折ってます。済みません!)。音程はギヤ歯の大きさによって変わります。正弦
波は「ポー」っという倍音の無い甘い音ですが、基本音の2倍音とか3/4倍音などと
倍音を重ねていく事により音質を変化させます。本体キーボードの左横に数種類の
ドローバーと呼ばれるバーがあって、そのバーを手前に出すことによって倍音の音
量が変わります。倍音の構成比が変わると当然音質も変わって来るわけです。もの
凄く乱暴な言い方をすれば「トーンコントロール」みたいなものです。
このハモンドオルガンは、殆どセットで使われていると言ってよい、
レスリー・スピーカーで音
を出します。レスリー・スピーカーの大きな特徴は、音の出口となるラッパ部分が回転
することです。その回転によって、ドップラー効果や位相のずれ、ディレイ効果、
反響によるリバーブ効果など複雑な効果が発生し、レスリー独特の空間的広がりを持
ったサウンドが発生します。ハモンドのサウンドは、このレスリースピーカー無く
してはあり得なかったと言って良い程、密接な関係を持っていました。余談ですが、
先述の通りハモンドオルガンはモーターでギヤ歯を回転させる方式だったのですが、
ご存じのようにモーターは電源の周波数に寄って回転数が変わるんですね。中古で古
いハモンドが入ってきたのですが、その事をすっかり忘れており、いざ販売する段
階になって「音程が低いんじゃない?」という事になり、急いで電源の周波数を関
西60サイクルから関東50サイクルに変換するサイクルチェンジャーを作って貰った
という笑えない想い出があります。今の時代では考えられない事ですよね。
他社のオルガンでは、イギリスのVox社、イタリアのFarfisa社などのものがありましたが、
これらの製品は輸入台数も少なかったのではないでしょうか。日本ではロック・シ
ーンと言うよりも、それ以前のグループ・サウンズ時代に活躍していた様です。筆
者がイシバシに入社した時点では代理店もはっきりせず、それらの製品を取り扱っ
ている楽器店はまったくない状態でした。
さて国内のメーカーですが、古くはブルーコメッツなどのGSバンド達が、
ヤマハのコンボタイプのエレクトーンを使用していたようですし、
他にもファーストマン(後のヒルウッド)、エーストーンからもTOPシリーズなどの
コンボタイプのオルガンが出ていた様で、GSバンドの写真やレコー
ドジャケットで、それらの楽器を見ることが出来ます。
1969年にヤマハからYC-10、YC-20、YC-30などのコンボオルガンが発売されていました。
ケース一体型、スタンド収納型でコンボタイプ
としては優れた製品でした。フラットな上部には、奏者から見て前後に動くレバー
があり、ハモンドのドローバーの役割を果たしていました。
YC-10以降では、1970年にはエーストーンから2弾鍵盤のGT-7が発売
されています。GT-7にはドローバーが装備されベース鍵盤とボリュームペダル(?)
とおぼしきものまで付いていた本格的オルガンでした。GSバンドにも良く使われた
らしいのですが、筆者は実物を見ることは出来ませんでした。ヤマハは1972年に2弾
鍵盤のYC-25D、YC-45Dを発売します。YC-10でさえ相当な重量でしたから、このク
ラスとなると、二人がかりでやっと持ち上げたものでした。
さて、これはあまり知られていないことですが、1967年、コルグに一人の優秀なエンジニア、
三枝(みえだ)フミオ氏が入社します。
1968年頃、氏の手により製作されたプロトタイプのオルガン、およそ50台ほどが
”Korg”のブランドネームで販売されたそうです(国内販売ではなく海外かも知れない)。
資料等によると、それは”デカオルガン”という名の何種類かの音色がプログラムされた
オルガンで、1971年頃に作られたとも紹介されていますが、詳細は不明です。
これに付きましては、可能なら三枝氏に直接お話を伺がってみたいものです。
1976年には、ハモンドからも電子式音源のNew X-5という機種が発売されていました。
それ以前にX-5と言う機種があったのですが、発売時期等は筆者にはよく分かりません。
New X-5は価格も当時50万くらい(?)だった様に思います。かなり高価なものでした。
80年代になり木製キャビネットのB-3000(\1,950,000)、コンボタイプのB-300(\850,
000)、一段鍵盤コンボタイプのB-100(\216,000)を発売しております。余談ですが、
ハモンドの電子式発信器開発には、ローランドの創立者である梯(かけはし)氏など、
当時のエーストーンの開発者も関わっていたらしいのですが、その発信器はアメリカ
のハモンド社に採用されず、それがエーストーンのGT-7に使われヒット商品になった
という裏話があるそうです。
以降の話をちょっと急ぎ足で...国内の雄、ローランド、コルグですが、ローランド
からは1977年、VK-6(49鍵2段、\585,000)、VK-9(61鍵2段、\1,100,000)の2機種
が、初めてにして本格的なオルガンとして発売されました。ドローバー装備、ケース
一体型、別売のベース鍵盤もありました。このオルガンは、ハモンドにレスリーが必
需品だった様に、同時に発売されたREVOというロータリーサウンドとコーラスサウン
ドの効果が出せるスピーカーを使うことによって、より一層のパワーを発揮しました。
翌78年にはRS-09(\119,000)と言う44鍵のオルガンとストリングスのサウンドが出
せる複合キーボードを、そして80年にはサターンと呼ばれたSA-09(44鍵、\109,000)
と言うオルガンとピアノのサウンドが出せるタイプを発売しました。
コルグは古くにプロトタイプ(デカ・オルガン)を発表しているようですが、
国内で正式に発売されたかは不明です。コルグには、
76年発売されたポリフォニック・アンサンブル
PE-1000(\256,000)と上位機種のPE-2000(\270,000)というプリセット型のスグレ
モノの機種がありまして、オルガンはもちろんの事、何種類かの音色を出せたため、
長くユーザーに支持されていました。(PE-1000/2000に付きましては、コルグ編をご参照下さい)
画期的なオルガンは80年発売のBX-3(61鍵2段、\388,000)
とCX-3(61鍵1段、\196,000)で、型番からも分かる様にハモンドをかなり意識した
作りとなっており、木製の外観、ハモンドそっくりのサウンドは、ハモンドB-3、C-3
に憧れた年代を相当にくすぐっていました。BX-3は別売の木製スタンドと組み合わせ
ることにより、ミニB-3と化しておりました。この機種は現在でもハモンド・フリー
ク達に評価の高い名器と言われております。
国内他社ではファーストマンを前身とするヒルウッドからもオルガンが発売されてお
ります。今回、資料不足で紹介できませんでしたが、何れ紹介したいと思います。
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