Dr.藤野  ドクター藤野のリペアー講座

ラッカー仕上げギターのメンテナンス
●ラッカー仕上げギターのメンテナンス(その2) / (その1

今回は、前回書きましたラッカー仕上げのクリーニングについて続きです。これま では、どちらかというと、比較的新しい楽器のメンテナンスについて書くことが多か ったのですが、今回はラッカー塗装のビンテージ・ギターなど年期の入った楽器の クリーニングについて取り上げてみたいと思います。 ギターの汚れは、塩分、油分などを含んだ手垢や、歌うときに口から飛んだ唾など に、空気中の埃がついて固まったもので、例えば自動車のフロント・ガラス、家庭 の換気扇の汚れなどとは異なる成分によるものです。その特性をまず理解しなけ ればなりません。 ラッカー塗装がデリケートであることは、何度かお話しいたしましたが、特に古い楽 器であれば、本来は柔らかい布で息を吹きかけながら丹念に根気よく磨くのがベ ストでしょう。 ただ、長年の汚れは簡単に落ちるものではありません。その場合は薬品の手助け が必要でしょう。前回も書きましたように、台所用などの強い薬品や、研磨剤入りの ものは、お使いにならないようにしてください。楽器専用のものをお使いください。 手垢の成分を分解し、塗装は傷めないものがございます。しかし、そういった薬品 を使っても、古い楽器の汚れは相当頑固で簡単に落ちない場合があります。むし ろ、中途半端な磨き方をすると、薬品により一旦分解した手垢が変質して再び固ま り、曇ったように見えることもあります。実は、古い楽器の場合、光沢のある塗装に 見えていても、塗装の上に乗った手垢、ヤニなど汚れの膜が光沢の要因となって いることもあるのです。その膜を一旦取り除きかじめたら、最後まで拭いきらない と、曇った感じになってしまう可能性があります。コツは一辺に全体を磨こうとする のではなく、狭い部分から少しずつ確実に垢落しすることです。最初のうちは、加減 がお分かりになりづらいかもしれませんが、ボディ裏など目立たないところで少し試 してみるのがよいかもしれません。 なお、ビンテージ・ギターの場合、汚れの膜が、見た目の味となっている場合もあり ます。重ねて書いている通り、日頃のクリーニングは楽器のメンテナンス上大事で はありますが、せっかくのビンテージ・ギターが奇麗になりすぎると興ざめするかも 知れません。楽器に悪影響を与えそうなカビ、明らかな手垢の固まり等は取り除く べきですが、全体的にはある程度汚れている方が風格を感じさせる場合もありま す。その辺のサジ加減は難しいところですが、自信がなければ専門家に相談され るのが良いでしょう。

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