懐かしのキーボード達
《懐かしのシンセサイザー/コルグ編 前編 》《 後編はこちら 》

コルグの本社は京王線沿線、 下高井戸に在り、設立時の正式社名は京王技術研究所、私が入社した当時は京王技研 工業株式会社となっておりました(懐かしー!)。現在は代表的なブランド名である コルグ(KORG)を社名とし株式会社コルグとなっております。設立は1963年(昭和 38年)ですから、もう40年弱の歴史を持っているんですよね。 「KORG」と言うブランド名について(真意の程は定かではありませんが)面白いエピソードがあります。 コルグはその黎明期に、一台のオルガンを開発、発売しています。 コルグ(当時の京王技術研究所)はそのオルガンを発売するに当たり、 ブランド名を決めなければなりませんでした。ブランド名は商品に刻印され、 多くの人々の目に留まる、いわば会社の顔の様なものです。 当初の案では「京王オルガン」をアルファベット表記して「Keio 0rgan」に しようとしたらしいのですが、Keio(京王)と言う名詞は日本人にしか分からず(英語にすると日本人でも?)、 海外では憶えて貰えないと言う理由で、「K-organ」にしようと考えられたらしいのですが、 そのまま読んでしまうと、日本国内では如何にも不適切な(テレビならPi-が入ってしまう)言葉になってしまうため、 その文字の短縮形で「Korg」にしたとの話です。繰り返しますが真意の程は定かではありません。 機会がありましたら、是非当時の関係者に聞いてみたいものです。

KORG SYNTHESIZER コルグがシンセ・キーボードメーカーとして有名になる前、本当に設立当時ですが、 最初の製品としてリズムボックスを世に送り出しています。ドンカマチックと云う その製品は、以降ドンカマと短く呼ばれ、年輩の方にはリズムボックスの代名詞と して記憶されることになります。1968年頃、コルグはシンセの試作機を完成してい ます。木製キャビネットで2段鍵盤のそのデザインや雰囲気は、後年発売され名器 と云われたBX-3に非常に良く似ています。面白いのは、やはり後年コルグ・キー ボードの特徴と云われたジョイスティック・コントローラーが既に装備されている 点です。1971頃にデカ・オルガンと呼ばれた一段鍵盤のオルガンが製作されていま すが、商品化されていたのかは???です。

KORG SYNTHESIZER 1973年、コルグの初のシンセサイザー、miniKorg700が発売されます。同じ年ローラ ンドからプリセットタイプのSH-1000が発売されており、「国産初」の...と云う称 号がどちらのものかは論議のあるところですが、同時期に開発を進め、同年に製品 を発表したという点は非常に面白いと思います。miniKorg700のスペックですが、 当然単音、37鍵、フィート切り換えにより計7オクターブ、1VCO(三角波、矩形波、 鋸歯状波、コーラス1,2(パルス・ワイズ?))、1VCF部(コントロールはトラベ ラーと呼んでいた)、1VCA部(二つのスライドコントローラーだけの独特な方式で、 ADSR方式のコントローラーは無かった)、ベンダー、ポルタメント、ビブラートな どの機能が付いて、価格は\135,000でした。その翌年、この第一号機種をマイナー ・チェンジしてminiKorg700Sが発売され(\165,000)、これは日本初の2VCOシンセ となりました。スケール・ノイズやリング・モジュレータと云った機能も追加され ていました。この機種の開発コンセプトとしては、まだエレクトーンの第3鍵盤的 な意味合いが濃く、エレクトーンの上に置いて演奏するという兼ね合いで、ツマミ 類も鍵盤の左横に少しと、多くのものは鍵盤の下手前に付いていました。

KORG SYNTHESIZER 1975年より、前述のminiKorgを筆頭に、現在ではヴィンテージと呼ばれている一連 の製品群がどんどん発表されて来ます。まず1975年に、画期的なシンセである 800DV(\240,000)が発表されます。この機種以前、国内機種では、シンセ=単音と 云うのが当たり前でした。しかしこの800DVはその名の通りデュアル・ボイス (Dual Voices)を可能にしていました。実際その音を聴いた時には、音色もさるこ とながら、2音が同時に出ると云うことだけで感激したものです。キーアサインは、 2箇所以上の鍵盤を押さえている時に、一番低音と一番高音が出る方式で、その中間 の鍵盤は無視されました。ツマミ類は鍵盤の上部、斜めにスロープしたパネルに全 てが付いており、現在一般的に見るスタイルになってきました。コントロール系は、 基本的に前述のminiKorg700Sとほぼ同様のツマミが横に2列に並んでいる形となって おり、当然それぞれ違う音色にすることも可能でした。

KORG SYNTHESIZER 同年、29種類のタブレットスイッチにより簡単に音色切り替えが出来る、プリセッ ト型の900PS(\170,000)が発表されました。このシンセには、鍵盤の手前に演奏に は邪魔にならない金属バーが取り付けてあり、そのバーに触れる事によってビブラー ト、リピートなどの効果が出せるタッチスイッチと呼ばれるユニークな機能が付いて いました。翌年の1976年には、プリセット音色は一切無く、より自分で音を作ること を重視した770(\135,000)が発売されました。2VCO、1VCF、1VCAと云う、極めて以 降のオーソドックスなシンセ・スタイルでしたが、外部入力を装備しており、エレキ ギターやエレキピアノなどの音色を、VCFやエンベローブ・ジェネレータを通して加 工出来るという機能が付いていました。この年の新製品として、かわら版の6月号で 紹介した、シンセとオルガン(?)の合体型の様な機種である、ポリフォニック・ アンサンブルPE-1000(\256,000)と上位機種のPE-2000(\270,000)が発売されてい ます。

KORG SYNTHESIZER 翌1977年、コルグは物凄いシンセを送り出してきます。が、その前に同年発売された シンセを先に紹介しておきましょう。プリセットながら非常に低価格で扱いやすく、 まあまあの音色であったMicro Preset M-500が\69,000という値段で発売されています。本格的な シンセ・ファンを満足させる機能ではありませんでしたが、反面、その使い易さから、 バンドのサウンドにちょっとしたアクセントを加えたいなどという需要に応えていま した。また非常に軽かったため、ギターのストラップを取り付け、ステージでショル ダー・キーボードとして使っていた方もいらっしゃいました。翌年には、スピーカー を内蔵したタイプのM-500SP(\73,000)が発売されています。この時期(発売年はっ きりしません)、ベースパート専用のシンセとして、SYNTHE-BASS SB-100(\85,000) が発売されております。ケース一体型で25鍵の通常鍵盤というコンパクト設計でした が、何とヤマハからオルガン用に発売されていた足鍵盤のBP-1を接続する事によって、 足でも演奏可能というちょっとしたアイディア品でした。

KORG SYNTHESIZER さて、話をこの年発売された凄いシンセというところに戻しましょう。当時、一部の 海外の高級シンセを除いて、いわゆるシンセと言えばまだまだモノフォニック(単音) と思われていた時代に、何と全音フル・ポリフォニックと云う、信じられない機能を 持ったシンセサイザーPS-3100(\490,000)とPS-3300(\1,300,000)が発売されます。 前年発売のPE-1000,2000もフル・ポリフォニックだったわけですが、上記2機種は VCF部分はひとつだけだったの対し、PSシリーズは1音毎にVCF、VCAが付いていました。 フル・ポリフォニック化に当たっては、特にその発振部分に、当時のコルグの技術者 のユニークな発想が活かされていました。PSシリーズで非常にユニークだったのは、 12音階それぞれにチューニングが付いていたという点です。現在我々が普通に耳にす る音楽は、12平均律と呼ばれる音階で作曲されているのが殆どですが、その他にも 純正調律や中全律など、通常のドレミファの上がり方とは異なる音階も存在するわけ です。当時は様々な音階が試行されていた背景もあり、また技術者としての立場から も、それらの音階に対応できる製品を作りたかったかったのだと思います。PS-3100 はそのパネルを良く見ると、後年発売されることになるMS-20の原型であることが良 く分かります。MS-20の最大の特徴であったパッチ・システムも既に装備されていま した。PS-3300は鍵盤部分のPS-3010(\100,000)がオプションとなっており、コネ クターによって本体のPS-3300に接続する方法でした。本体ユニット(つまりPS- 3300)は3台のポリ・シンセがひとつのケースに収まった様なもので、非常に多彩な 音作りが可能でした。また60PINコネクターで他のPS-3300ユニットやPS-3100と 接続することにより、数系統のポリ・シンセとして使用することが可能でした。 木製キャビネットにブラックパネル、多くのツマミ類とパッチシステム、ムーグの システムを連想させるその風貌は当時のシンセ小僧達の憧れでもありました。

2年後の1979年、次号でご紹介するMSシリーズのシンセが発表された年でもありますが、 上記のPS-3100を基本設計に、16種類の音色をメモリ可能な、このスタイル最後のシン セとなったPS-3200(\750,000)が発表されました。時代はポリフォニック、メモリ時 代を迎えようとしていましたが、価格面でまだまだ高い代物でしたので、一般にはモノ フォニックタイプが普及していました。今月はここまで。 製品の発表年代等に誤りがありましたらご容赦下さい。

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