この一枚を聞け! [「3」THIRD / SOFT MACHINE]
今回紹介するアルバムは、70年代初頭に活躍していたジャズロック・バンド、SOFT MACHINEが1970年に発売された3枚目のオリジナルアルバム「THIRD(邦題:3 THIRD)」であります。3枚目のアルバムで「THIRD」って、かなりありきたりではありますが、この時代これがカッコいいとされたのか、いろいろなバンドでこのネーミングが採用されています。
SOFT MACHINEはほとんど日本では馴染みのないバンドでありますが、母国イギリスでは大御所バンドの仲間に入る位のバンドなのです。結成は1966年とされており、デビューした当時は時代の流れなのか、サイケデリック・ロックバンドとしてデビューします。これもこの時代の「あるある」でございます。その証拠にデビュー当時はジミ・ヘンドリックスと一緒にツアーを廻っていた時期もあるのです。
ウッドストック・フェスティバルを境に音楽にあらゆるジャンルが生まれてきます。サイケデリック・ロックが衰退を見せ始めると、その音楽ムーブメントが「ハードロック」、「ブルースロック」、「プログレッシブロック」と言ったジャンル分けされるようになり、その音楽スタイルも大きく変わり始めるのでした。その中で「プログレッシブロック」に傾向として似てはいるけど、よりジャズに近いニュアンスを出しているバンドが出現しはじめました。ジャンルは「ジャズロック」。その音楽スタイルの代表的なバンドが、今回紹介するSOFT MACHINEというわけです。
まず何が凄いかというと、このアルバムはレコードで発売された時代には2枚組のレコードでした(CDでは1枚)。その2枚組のレコードに収録曲が4曲!! と言うことは各面に1曲のみが収録されているという事なんです。レコードにはA、B面合わせると10曲くらい収録されているのが普通ですが、本作は当然ながら1曲が全て18分オーバーの大作であり、そのどれもが即興演奏の様な曲なのです。男らしいではありませんか(笑)
1曲目の“Facelift”という曲では、静かなアバンギャルドな音の渦から、歪んだオルガン、変拍子っぽい即興演奏とメロディーラインを探すのはほぼ困難というフレーズが続きます(笑)。ただ、凄いのはこの音楽そのものを1970年に演奏していたことを考えると、その才能は計り知れないものを感じるのですね。その狂気さえ感じる音楽スタイルを形成していたのはバンドのスポークスマンでもあった、ドラマーのロバート・ワイアットであると言われています。ただ、このロバート・ワイアットも長くこのバンドに在籍しているわけではありません(苦笑)。それもこの時代の「バンドあるある」であるのです。
時代によって大きくバンドスタイルを変えていくSOFT MACHINEですが、70年中期頃になると「ジャズロック」から「ジャズフュージョン」に変更していき、いろいろなバンドに多大な影響を与えていくのです。後にコラシアムII、テンペスト、マハビシュヌ・オーケストラ、ブランドXと言ったバンドの出現にもつながっていきます。テンペストやU.K.などのギタリスト、アラン・ホールズワースや、ポリスのギタリスト、アンディー・サマーズなども、このSOFT MACHINE に在籍していたのは有名な話であります。
最近、キング・クリムゾンやイエスなどの大御所プログレッシブ・ロックのバンドが良く来日いたします。このSOFT MACHINEも、メンバーはオリジナル・メンバーが一人もいませんが、いまだ現役で頑張っています。歴史を作ってきたバンドの音には重みがあり、その楽曲にはその時代の背景がしっかりと映り込んでいるものです。これらのバンドを観に行くには高いチケット代という壁があるかもしれませんが、現代の音楽しか聞いた事の無い方には、この時代の音楽を是非聞いていただきたいですね。今につながるヒントが必ず隠されていますから・・・とにかくこの1枚を聞け!