スターキー星の「月刊 GUITAR TALKING」第9回

Gibson Custom Japan Limited Run 1958 Mahogany Explorer Elbow Cut VOS Antique Natural



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 みなさん、こんにちは。スターキー星です!

 ギブソンカスタムからジャパンリミテッドモデルとして限定製作されたエルボーカット・エクスプローラーのご紹介をしましょう。

 こちらは特定のアーティスト・シグネチャーモデルではないのですが、一目であの世界一有名なギタリストを彷彿させる奇抜なデザインです。エクスプローラーの肘があたる部分が大胆にカットされた何ともユニークなボディシェイプ。御大エリック・クラプトンが1974年の初来日公演の際に使用していたギターとして広く知られています。

 ちょうど1973年のレインボーコンサート後でブラッキーを使い始めた時期に重なりますが、一世を風靡した名器ミュージックマンのHR-130R、412GSキャビネットの三段スタックをバックにECがこのエクスプローラーを構えている広告をご覧になったことがある方は多いかと思います。当時のブートレッグのジャケットなどでも取り上げられていましたし、1975年に発売された名盤「There's One In Every Crowd(安息の地を求めて)」のレコーディングでも一部エクスプローラーをプレイしていたようです。ちなみに1983年のARMSコンサートではエルボーカットが施されていないエクスプローラーを演奏しているシーンも見られます。なかなか良いトーンですのでチェックしてみてください。

 そもそもエクスプローラーというモデルは、1957年7月にシカゴのNAMMショウに展示されていたフューチュラというプロトタイプ(デザインパテント181,865)に端を発するモダニスティック・シリーズとしてフライングVとともに発表されました。ルックス、サウンドともに革新的なギターデザインを行っていたフェンダー社の台頭などへの対抗策として、その名の通り、伝統から脱却して時代を先取りした近未来的な斬新なデザインのギターです。1958年のプライスリストではサンバーストのレスポールと同様、247.50ドル(別売りケース75.00ドル)の価格表記が確認できます。諸説がありますが、正式なプロダクションレコードとして記録されている分では1958-1959年にかけて22本のみと言われ、実際製作された本数でも50本未満と見られる極めて稀少なモデルです。それを改造したのが前述の個体ということになります。

 このエルボーカット入手の経緯に関しては、文献により様々です。もともとクラプトンがニューヨークのとある楽器店で「ギブソンファクトリーで製作されたプロトタイプだと信じて購入したら、後日そうでないことが分かってがっかりした」という噂もあります。ニューヨークの工房にて修復不可能な傷があったため、テールを切り落とす加工が施されたと言われることが多いですし、当時ロサンゼルスに拠点を置いていた伝説的ギタービルダー/リペアマンのジョン・カラザースが修復に関わっていたという説もしばし取り上げられます。当時定番のモディファイでありますがクルーソンペグは、グローバー102のロトマチックチューナーへと換装されています。

 このエルボーカットはチェリーサンバーストのレスポール同様、盗難にあったと伝わっていましたが、実際はボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのジュニア・マーヴィンに譲られたそうです。クラプトンがボブ・マーリーの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」をカバーして大ヒットさせたのは有名で、四十年来のオハコになっていますが、デレク・アンド・ザ・ドミノス解散後のECは、特にアメリカンルーツミュージックやジャマイカン・レゲエに傾倒が深まっていった時期でどのアルバムにも影響が色濃く現れています。クラプトンはボブ・マーリーのライブにもよく通っていたそうですので、ジュニア・マーヴィンへギターを譲るに十分な親交があったのでしょう。ジュニア・マーヴィンはトラフィック/ブラインド・フェイスのスティーブ・ウィンウッドの1977年のアルバム録音にも参加していますので、もしかすると、そういったところに直接の契機があるのかもしれません。彼が長年所有していたあと、ギターコレクターの手に渡ったというのが通説となっております。

 今回ご覧いただいているモデルはマホガニー材で製作されています。オリジナルは一般にコリーナと呼ばれるリンバウッドを使用しております。ワシントン条約(CITES)にリストされているような稀少材ではありませんが、ギター製作用の良質な材を得るのが難しいようで、2008年にカスタムショップから50周年コリーナ・トリビュート・シリーズとして発売された際には販売価格も100万円弱でした。スプリットVシェイプヘッドのレスポールなど印象に残っている方が多いでしょう。

 シクンシ科大型の広葉樹ホワイトリンバウッドはマホガニーに近い比重を持ち、またマホガニーに比較して淡く薄めの色合いの黄褐色です。今回のマホガニーバージョンは2001年にリプロダクションされたときのものと比較しても、やや淡い色味ですので、クリアーコートラッカーが日焼けすることでオールドのような経年変化を楽しめるのではないでしょうか。

 仕様としてはヒストリック・コレクションの2014年最新スペックで、オールドスタイル・チューブレストラスロッド、ハイドグルーによるネックジョイント・指板接着を採用しています。ヴィンテージPAFの研究から新開発されたカスタムバッカーを搭載しており、これはアルニコ3マグネットを使用したミスマッチコイルで、ワックスポッティングを施していないピックアップです。コリッとミドルが食い付く芯のある音色はブルースにぴったりだと思います。

 さぁ、ギターヘブンの扉をノッキンオン!!





<お問い合わせ>


石橋楽器 渋谷店
TEL 03-3770-1484
shibuya@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、池袋店〜御茶ノ水本店を経て、現在は渋谷店にてインポートギターを担当している。日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてフェンダーのプロダクトスペシャリストに認定されている他、ギブソン・ファクトリーも定期的に訪問して選定買付け等を行っている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、アップトゥデイトな情報のご案内、そして一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。