スターキー星の「月刊 GUITAR TALKING」第1回

Gibson Custom Shop L-5 Non Cutaway Carved "Shark" #2 built by Bruce J.Kunkel



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 みなさん、こんにちは。スターキー星です!

 今回は今年7月にアメリカのテネシー州ナッシュビルにあるギブソンのカスタムショップファクトリーを訪問した際に買い付けてきたギターのご紹介をしましょう。

 一言で表現してしまうと、ギブソン・カスタムショップの熟達したルシアーによる研ぎ澄まされた感性が究極の域で具現化されたギターといったところでしょう。 所謂「ワンオフもの」(One of a Kind)として、唯一無二のハンドビルト・ギターをリリースしているカスタムクリムゾン・シリーズ。 その最上モデルとして、今回渋谷店に入荷したのが、ブルース・カンケルBruce Kunkel氏が手がけた「シャーク・シリーズ」です。 カスタムショップがストックしている厳選された木材の中で、更に最良のマテリアルをハンドセレクトし、高次元の技術で丹念に製作されております。インレイやバインディング、エングレイブなどの装飾面でも、通常のラインナップとは一線を画したエクストラグレードの仕様を実現しています。

 ブルース・カンケル氏はニュージャージー州育ちで、優秀な木工職人であった父親の影響を受けて、幼少の頃からウッドワーク/アートデザインへの馴染みがとても深かったそうです。12歳のときは既に自分自身でブルーグラスやオールドタイムで使用される5ストリングス・バンジョーを製作していたというサラブレッドで、二十代前半の頃にはバンジョーのインストラクターとして Tom Barth’s Music Box in Ledgewoodにて働いていたそうです。そこは多くの偉大なギタリストのメッカで、当時はあのアーチトップ界の雄、故ボブ・ベネディットBob Benedettoも専属リペアマンとして勤務していたそうです。 1980年代にはC.F.マーチンの本拠地としても有名なペンシルバニア州でハイエンド家具や楽器の製作を行っており、ナッシュビルへと生活の拠点を移したのは1992年のこととなります。

 そこでブルース・カンケル氏の実力がギブソンのプレジデント、デイブ・ベリーマンの目にとまり、ギブソン・カスタムショップ立ち上げ時のメンバーとなりました。 その後、アーチトップモデルを中心に多くのプロジェクトに携わり、現在に至るギブソンのプレステージ確立に大きな貢献を果たしました。 2003年には自分自身のブランドKunkel Guitarsに専念するために一旦ギブソンを離れることになりましたが、現在は再びカスタムショップの一員として復帰しています。 彼のデザイナー、アートギター・ルシアーとしての、卓越したスキル/ノウハウは多くの著名人からも認められ高く評価されています。

 彼が独自にデザインを行い、ハンドビルトにてわずか4本のみ製作されたシャークギター。 本器は、まさに「サメ」を彷彿させる、思わず息を飲んでしまうほどに美しいフィニッシュの「Number 2」です。「正面から見える伝統的なfホールではなく、まるでサメのエラのように、横から見えるサウンドホールにしたらどうなるだろう?」という発想がデザインのオリジナルコンセプトとなっています。

 合わせて、「エボニーパーツをつけて、バインディングを施さず、まるでヴァイオリンのようなアーチトップにしたらどうなるだろう?」というアイデア。 近未来的でスペイシーな雰囲気を漂わせている佇まいですが、どこか伝統的な温かさ、深みを感じる顔付きをしています。チゼル(のみ)やフィンガープレーン(カンナ)といった、伝統的なツールと技法で丹念に削りだされたスプルーストップ。 完全手仕上げで気の遠くなるような作業ですが、決して妥協することなく、たっぷりと時間をかけて丁寧に仕上げられております。その信じられないほど滑らかな形状のカーヴィングはまさに芸術そのものです。

 マザーオブパール(真珠の母貝として使われる白蝶貝)によるインレイは、リッチライト指板に施されておりますが、これはサメの歯を模しております。 ボディサイドを一瞥すると、リム部分にはサウンドポート(孔)が配されており、そこからプレイヤーの耳にダイレクトに響き渡る芳醇なサウンドが音楽的創作力を引き立ててくれます。厳選されたワンピース・メイプルネックもプレイヤーの手に吸い付いてくるような一体感を感じるグリップ、ハンドカーヴィングによる、テーパー加工されたオリジナル・デザインのヘッドストックも注目ポイントです。エボニー・フィンガーレストにフローティングセットされたオリジナルデザインのミニハムバッカー・ピックアップ。弦振動のロスを防ぐべく、配線は同じくそのフィンガーレスト下にセットされており、通常のフォンジャックではなくミニジャックで出力。ボリュームやトーン、キャパシターなどのアッセンブリを一切廃したダイレクトなアウトプット設計をフィーチャーしております。

 至高のジャズギターであると同時に、超一流のアートギターそのもの。ブルース・カンケル氏の狂おしいほどの情熱が強かに息衝いています。一音紡ぎ出しただけで、次の瞬間には思わず浮世離れした世界にトリップしてしまうような艶やかな麗しいトーンで、筆舌に尽くしがたいプレミアムなフィーリングを味わうことができます。間違いなくギター史に刻まれるであろう珠玉の一品だと感じさせられますね。

 さぁ、ギターヘブンの扉をノッキンオン!!





<お問い合わせ>


石橋楽器 渋谷店
TEL 03-3770-1484
shibuya@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、池袋店〜御茶ノ水本店を経て、現在は渋谷店にてインポートギターを担当している。日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてフェンダーのプロダクトスペシャリストに認定されている他、ギブソン・ファクトリーも定期的に訪問して選定買付け等を行っている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、アップトゥデイトな情報のご案内、そして一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。