Brief History of Maestro
 マエストロは1935年にアメリカで創業した、77年の歴史を持つ老舗ブランドである。1950年代初頭頃にシカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツ(以下:CMI)の傘下に入り、1955年にアコーディオン用の真空管アンプを発売。このCMIこそ、ギブソン社の親会社でもあり(ギブソンは1944年に参画)、それが縁で両ブランドは密接な関係を持つようになる。1950~60年代初頭にかけての主力がギター・アンプで、ギブソンGAシリーズはマエストロ・ブランド名義でもリリースされるようになった。
 1959年にCMIはマーケット・エレクトロニックス社が開発したエコープレックスを手掛けることになり、販売するにあたり宛がったブランドがマエストロであった。マエストロ・エコープッレックスは真空管駆動による[EP-1]と[EP-2]を1960年代に発売、1970年代には後継としてトランジスタ方式の[EP-3]と[EP-4]をリリースした。このエコープレックスこそ、マエストロのブランド・ネームを高めた立役者であったことは言うまでもないであろう。
 だがマエストロにはもうひとつ歴史的な名機が存在する。それが世界初の歪み系ペダルとして1962年に発売された[FZ-1]ファズ・トーンである。本機は特許も申請されており、その特許書類では“本機を繋ぐことで、ギターがサックスやトランペットのような音色になる”という謳い文句が書かれていた。画期的な製品であったにも関わらず、まだエレクトリック・ギターの世界で“歪み”という概念がなかった頃に発売されたこともあり、当初はまったく売れなかったという記録も残っている。しかしながら1965年にザ・ローリング・ストーンズが本機を使って作った「サティスファクション」がヒットするや否や、[FZ-1]も飛ぶように売れるようになったという。その後、後継機種の[FZ-1A]筆頭に、現在マニアの間で人気の高い[Bass Brassmaster]など、コンパクト・エフェクターを続々とリリースした。
 1969年に、ギブソン及びマエストロの親会社であったCMIはノーリンに買収。そんな折に、その後に名を馳せることになる技術者がマエストロに協力することになる。その若人の名前はトム・オーバーハイム、後のオーバーハイム・シンセサイザーの創設者である。1968年頃、UCLA大学を卒業したばかりのトムはリング・モジュレーターを開発し、すぐさま当時のヒット映画『猿の惑星』の音響で使われることになる。そんな彼の才能に目をつけたマエストロは、外注でエフェクターの開発を依頼。まずは[Ring Modulator]が発売され、さらに[PS-1](フェイズ・シフター)を筆頭とする、後に名機と呼ばれるような製品を次々と輩出していった。
 1973年、ノーリンはシンセサイザーの雄、モーグを買収。そして1975年にはオーバーハイムへの外注依頼を取りやめ、これまでのエフェクター開発をモーグに引き継がせた。モーグが関与していた頃のマエストロ・エフェクターは俗に“タンク・シリーズ”と呼ばれていたもので、筐体デザインも独特で、サウンド面でも個性的なものが多い。しかしながら1979年にはマエストロ・エフェクターの生産を止め、1983年にモーグ社を売却。その後、ノーリンは経営に行き詰まり、1986年にギブソン社を現在の経営陣(ヘンリー・ジャズコヴィッツ、デイヴィッド・ベリーマン、ゲイリー・ゼブロウスキー)へ売却した。新たな経営陣のもとで生まれ変わったギブソン社は、1987年を皮切りにスタインバーガーやトバイアスといったメーカーを傘下に入れ、一度手放したマエストロ・ブランドも取り返した。新たな門出を切った新生マエストロは2001年に[FZ-1A]のリイシュー・モデルをリリースし、完全復活を証明。
 そして近年になり、これまでアンプやエフェクター・ブランドとして名を馳せたマエストロが遂にギターを手掛けることになり、話題を呼んだ。本国アメリカではエレクトリックのみならずアコースティック・ギターもラインナップし、ギター以外にも弦やピックなどのアクセサリーも扱っているのだが、これらの製品は日本で発売されていなかった。
Accordion Amplifier
Accordion Amplifier
Echoplex EP-2
Echoplex EP-2
FZ-1
FZ-1 Fuzz Tone
PS-1
PS-1 Phase Shifter
Stage Phaser
Stage Phaser