Ishibashi Mail Magazine Vol.43
今回はジェネシスの76年に発売された「A TRICK OF THE TAIL」を紹介します。前作「THE LAMB LIES DOWN ON BROADWAY」を74年に発売した後、バンドは大きな危機を迎えることになる。それはバンドの中心的人物でもあるヴォーカリスト、ピーター・ゲイブリエルの脱退である。70年代初期のジェネシスはこの奇抜なヴォーカリストが象徴でもあった。ある時はマントに逆三角形の被り物、ある時はイボだらけの全身スーツ、ある時は顔の周りにヒマワリとこの時代にここまで”ぶっ飛んでいるヴォーカリスト”は居なかったと思う! 75年に入りバンドは大きな賭けに出た。ドラムを担当していたフィル・コリンズをボーカルに抜擢したのだ。当然、このアルバムは全曲フィル・コリンズが歌っている。ピーター・ゲイブリエルと比べると癖も無く、聞きやすいのだがこの時期に多くのファンをなくしたことも事実である。従ってアルバムはベースにマイク・ラザフォード、キーボードにトニー・バンクス、ギターにスティーブ・ハケットと、フィルの4人でレコーディングされている。 しかし、この1名減った事でより今まで無かったカラーも出てきて、仕上がりも申し分ない。何よりもプログレの基本とも言える起承転結がアルバムの中にしっかりと表れているのだ!1曲目の”DANCE ON A VOLCANO"からラストの”LOS ENDOS"まではこの後、解散するまでバンドのライブでのハイライトともいえる曲になっていくのである。ちなみにライブではやはり4人で演奏するのが困難であった為に、キング・クリムゾンにも在籍していたドラマー、ビル・ブラッフォードなどがツアーには参加していた。 また、ジェネシスはプログレバンドにはめずらしく70年代には1年に1枚のペースでアルバムを発表している。このアルバムの翌年にも銘作「WIND & WUTHERING」を発表しているがここでも再び危機が訪れる。それはギターリストのスティーブ・ハケットの脱退である。このあたりからバンドの方向性にも変化が現れてきている。まず、長編の曲がなくなってきたこと。そして、曲そのものがキャッチャーになってきている事だ。そして78年初来日を果たす。ギターにダリス・ステューマー、ドラムにチェスター・トンプソンを従えての来日で、その雄姿を私は中野サンプラザで見た。当時、はじめてみるバリライトや地を這う様なMoog・タウラスの重低音に感動を隠し切れなかったのを覚えている。そのときのエンディングにもこのアルバムの”LOS ENDOS"が使われていたのだ! 80年代に入るとチャートにも顔を出すほどのバンドに変貌を遂げていく。この頃はヴィンテージ・ファンにとってはとっても辛い時期だったと思うのだ。そのことをバンドでも悟ったのか90年に入るとライブでは”オールド・メドレー”なるものを演っていたのも事実である。そして90年後半にほぼ解散。しかし、2007年に再び活動を再開!当初はヴォーカルにピーター・ゲイブリエルも復活という噂も流れたのだが、再始動は78年のラインナップと同じであるフィル、トニー、マイクの3人であった。78年に発売されたアルバムのタイトルは「・・・AND THEN THERE WERE THREE・・・」。訳すと”3人寄れば文殊の知恵”、正に知恵の再現となった訳である。ちなみに邦タイトルは「そして三人が残った」である。ダサすぎるっしょ〜! とにかくこの1枚を聞け! |