1969 Gibson Les Paul Custom Black

1969 Gibson Les Paul Custom Black

1954年、ギブソンからレス・ポール・シリーズの最上級モデル“カスタム”が登場。今回はこの“ブラック・ビューティ”の異名を持つ、美しくクールなギターについてお話ししよう。

レス・ポール・カスタムが発売された1954年?56年までの間は、他のレス・ポール同様、ハムバッカー・ピックアップは搭載されておらず、シングルコイル・ピックアップがマウントされていた。しかし、リア・ポジションこそ[P-90]をマウントしていたものの、フロント・ポジションには通称“アルニコV”と呼ばれる[P-480]を搭載し、ゴールド・トップ・レス・ポールとは差別化されていた。

このフロント・ポジションにマウントされた“アルニコV”は、それまでL-5やバードランドといったフル・アコースティック・アーチトップ・モデルに搭載されており、ジャズ・ギタリストが好みそうな奥の深い音色と豊かな倍音が持ち味となっていた。このピックアップ・キャラクターがソリッド・ボディのレス・ポール・カスタムとも相性が良く、クリーンからオーバードライブまで、太くてサステイン豊富な音色を出力するのに貢献している。

それが1957年にハムバッカー・ピックアップ[P-490]の登場により、レス・ポール・カスタムは仕様変更され、ハムバッカーを3発搭載するようになる。この変更によって生まれ変わった新生レス・ポール・カスタムは、よりパワフルになり、分厚いサウンドが持ち味となった。

1961年までレス・ポール・カスタムはシングル・カッタウェイ・シェイプで生産されたが、その後レス・ポール・シリーズ全体が大きな仕様変更を行ない、これに伴いSGシェイプへと変更となった。  1954?61年までのレス・ポール・カスタムはゴールド・トップやスタンダードと異なり、ボディ・トップにメイプルを貼っておらず、ボディはマホガニー単板のみで作られていた。このボディ構造により、メイプルをラミネイトしたゴールド・トップやスタンダードと比べて、カスタムは音色が柔らかく、その独自のトーンから一度弾くと虜になってしまう人も多いようだ。

レス・ポール・シリーズは、ギタリストのレス・ポールとの契約上、1962年からその名が使えなくなり、一度生産を打ち切り、ギブソンは新シェイプの[SG]へ舵を取るようになった。しかしその一方でギタリストから人気が高かったため、1968年に再登場。この時にリイシューされたのが、P-90をマウントしたゴールド・トップ・レス・ポールと、ブラック・フィニッシュのレス・ポール・カスタムである。1957?60年のカスタムが3ピックアップ仕様(イレギュラーで2PU仕様もあった)が標準だったのに対し、1968リイシューは2ピックアップ仕様で作られた。

これに加えて、ボディ構造も大きく変更となった。50年代のカスタムは前述のとおり、マホガニー単板ボディであったが、再生産カスタムはメイプル・トップ/マホガニー・バックと、スタンダードと同じボディ構造で製造された。50年代のカスタムがウォームな音色が持ち味だったのに対し、再生産カスタムはボディにメイプルが加わったことにより、歯切れのいいサウンドとなり、鮎川誠やミック・ロンソンを筆頭に、本器を使って素晴らしい音色を奏でているギタリストはたくさんいる。

再登場してすぐにレス・ポール・カスタムの仕様変更が始まった。今回の1969年製の個体は、ネックが1ピース・マホガニーだが、1969年には3ピース・ネックが標準仕様となった。

指板はエボニー材が受け継がれ、フレットも発売当初から“フレットレス・ワンダー”と呼ばれる細くて背の低いものが打たれている。これはレス・ポール・カスタム用に開発されたもので、スムーズな弾き心地を目指したものだという。フレットはサウンドにも影響を及ぼすが、ギブソン社はこのフレットを70年代前半まで継続していた。

ボディ・バック材は1969年よりラミネイトのマホガニー材が使用され、これらは通称“パン・ケーキ”とも呼ばれている。ちなみに2枚のマホガニー単板の間には接着をよくするために薄いメイプルの板が挟まっている。一説によれば、SGのボディに用いていたマホガニー材を使っていたという。SGはレス・ポールよりボディ厚が薄いので、そこを利用したということなのだろう。今回の個体は“パン・ケーキ”になる前の1ピース・マホガニー・ボディで、ちょうど変更前の過渡期のものである。

ヘッドのロゴは[Gibson]の“I”の文字に点がなくなるのも1969年である。これはレス・ポール・シリーズに限らず他のモデルも同じ変更が一斉に行なわれ、60年代中期か後期かを見分けるポイントとして、この箇所で判断することが可能だ。  レス・ポールの魅力はボディ・トップの美しいカーブ形状にあるが、70年代に入るとトップのアーチは浅くなり、レス・ポール好きを魅了する美しいアーチ・ラインを保っているのは1969年まで。レス・ポールは圧倒的に50年代のものが評価が高いが、ヴィンテージの中でこれらに次いで人気が高いのが1968?69年の再生産モデルだ。ロックン・ロール、パンク、ハード・ロック、ブルースと、ジャンル関係なく使用できるギターとして、現在まで愛され続けている。

Written by デューク工藤

本連載を執筆していた当時は渋谷店に勤務し(現在は御茶ノ水本店FINEST GUITARS在籍)、プロフェッサー岸本が一番弟子と認めた存在。数々のレジェンダリーなヴィンテージ・ギターを師匠と共に見て触わり、オールド・ギターに関する知識を蓄積。自身のフェイバリット・ミュージックは60~70年代のロックとブルースで、音楽趣向においてもヴィンテージ路線は貫かれている。

御茶ノ水本店FINEST GUITARS

所在地:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-8-6 丸善ビル 1F / 2F

TEL:03-5244-5210

営業時間:11:00 ~ 19:00【水曜定休日】

店舗詳細はこちら