Martin D-28 1968年製

プロフェッサー岸本によるギター重点解説 Martin D-28 1968年製

Martin社は180年以上の歴史を持つアコースティックギターの名門である。創業者クリスチャン・フレデリック・マーチン一世は、ドイツのベルリンから約170km南下した都市ドレスデンに住み、ヴァイオリンのケースなどを製作する家業に携わっていた。楽器製作に興味を持った15歳のマーチン少年はウイーンのギター製作家シュタウファー氏の従弟となり、製作技術を身につける。その後、1883年9月9日に、新天地アメリカのニューヨークへと渡る。この1883年こそが、Martinギターのヘッド部に刻まれた“EST 1833”であり、創業時の意気込みを感じさせる記念すべき年号である。1833年の日本では、歌川広重(安藤広重)の東海道五十三次や葛飾北斎が浮世絵などを書いた江戸時代(天保四年)で、歴史の授業で出てくる天保の改革や大塩平八郎の乱などがあったころだ。ニューヨークでも物々交換が取引の常識であり、当時のギターなどもワインや子供服など生活必需品と交換していたといわれている。

Martin D-28は、その後のフランク・マーチン二世の時代、1931年に製造を開始した。当初D-2として4台の原型が製作され、同年正式に1台のD-28が誕生し幾つかのマイナーチェンジをしながら現在も生産が続いているMartinの代表モデルである。

その後の1969年に行われた使用木材の変更は、最も重要なモデルチェンジの一つといえる。それは、ギターボディーの横板と裏板に使用されているローズウッド材がブラジリアンローズウッドからインディアンローズウッドへの変更されたことである。このブラジリアンローズウッドは、別名ハカランダとも言われ、美しい木肌(木目)から家具、壁面、嗜好品の装飾に多用された高級素材である。このハカランダ材は、1960年代にブラジル政府が熱帯雨林の自然保護を名目に丸太での輸出を禁止したため、大量生産が不可能となる。この時期、多くのギターメーカーは1965年頃からインディアンローズウッドへ切り替えを開始したが、マーチン社ではこのハカランダ材を貯木していたことから、1969年まで生産が続けられた。

KUMIのD-28は、この大変貴重なハカランダ材を使用したモデルである。見た目の美しさもあるが、音の立ち上がりが早くパワーがあり、抜けの良い乾いた音色は、1968年製という約50年近く経過し乾燥して響きの良い木材コンディションと合わせて、唯一無二のサウンドとなっている。