《懐かしのシンセサイザー/ヤマハ編》
ヤマハはシンセ以前にエレクトーンという長い(?)電子楽器の歴史
があります。したがって、純粋にシンセサイザーを一から作るというよりも、エレ
クトーンの上級機種を作る上で、結果としてシンセサイザーという形になった...
とも云える背景があります。通常我々が考えるシンセサイザーと言えば、単音であ
るモノフォニック・シンセから始まり、モジュール化や大型化の過程を経て
ポリフォニック・シンセへという流れですが、ヤマハにおいては、1975年にエレクトーンの最上級機種として発表
されたGX-1という機種は、外見はエレクトーンでありながら、内部構造は明ら
かにシンセサイザーでした。これによって、ヤマハはいきなりポリフォニック・
シンセを世に送り出したと云うことになります。
GX-1(\7,00,000?)は、ヤマハにおける実質的なシンセ第一号機種であったわけですが、この
機種はスティービー・ワンダーやキース・エマーソンのお気に入りとなり、特に
キース・エマーソンは一時期、彼のトレードマークであったハモンドのC-3とムー
グの組み合わせには触ろうとせず、もっぱらGX-1を弾きまくっていたそうです。
このGX-1を作製する過程で用いられたシンセ・モジュールで、モノフォニッ
クのシンセザイザーSY-1(\200,000)という機種が作られました。これはGX-1を発表する前年、
1974年に発表されておりますので、製品として出されたのはSY-1が先と云うことにな
ります。SY-1は音作りをして楽しむと云うよりも、エレクトーンとセットでソロ部分
を担当するというコンセプトだった様です。したがって音色はプリセット式でした。
残念ながら筆者は上記のどちらにも触る機会がなく、その特徴・音色などをお伝えす
ることは出来ません。もっともGX-1はその当時でも700万円もした代物ですから、お
いそれとはお目にかかれなかったワケですが...。
国内メーカーでは、SY-1発売の前年に、既にローランドからプリセットタイプのSH-
1000が発表されており、SY-1と同時期に上位機種のSH-2000、コントロール・パネル
方式のSH-3が発表され、コルグからもMini Korg 700S、翌年にはデュアル・ボイス
の800DVが発表されており、ヤマハとしてはGX-1というもの凄いシンセ(エレクトー
ン?)を発表しておきながら、低価格帯の普及品クラスに於いては、国内他社と比べ
遅れを取っていた感が否めない状況でした。しかしGX-1で培われた技術は、その後の
テクノロジーの進歩によりICチップ化され、1977年、CSシリーズとして花開くことに
なります。そのモノフォニック・シンセはブラックカラーで固められた格好の良いデ
ザインで、ライブ指向、スタジオ指向両方の支持を受け、爆発的にヒットしました。
特にCS-10は\82,000という、当時のシンセの値段帯としては非常に低価格だったため、
シンセの入門機種として購入された方も多かったようです。CS-30はアナログ・シー
ケンサーも装備され、パッチングも可能だった様に思いますが、資料がなく良く思い
出せません。CS-30Lはケース一体式だったかと思います。
さて同時期に発表された
CSシリーズに、ポリフォニックタイプのCS-50, CS-60, CS-80という機種がありました。
こちらは全てケース一体式、スタンド付き(別売だったかも)でライブ指向、キーボ
ード・プレイヤーの心をくすぐる仕様となっていました。特にCS-80はアフター・
タッチ機能やリボン・コントローラーなどの斬新な機能が盛り込まれ、演奏の表現力
を増すことが可能でした。但し価格は\1,280,000という超が付く高価品であった
ため、羨望の眼差しだった方も多かったはずです。CS-80は自分で作った音を4種類
メモリー出来たのですが、いわゆるデジタル式のメモリではなく、表パネル面に設け
られた小さな蓋を開けると、その中にVCOやVCF、エンベロープなどをコントロ
ールする小さなツマミがぎっしりと詰まっており、一列一音色という感じで四列並
んでいると云う、現在からすると非常にアナログな仕組みですが、当時としては、
ポリフォニックで、しかも音色を瞬時に変えられるというのは素晴らしく画期的な
事だったのです。1978年には更に廉価版のモノ・シンセCS-5(\62,000)や
コスト・パフォーマンスに優れたCS-15(\105,000)が発表されました。
1979年にはCSという名前は付いていますが、まったく違ったデザインのシンセが
発表されました。ボディの左右両端に木目が印象的なシリーズで、プリセットを
豊富にしライブ指向を強めたCS-15D(\148,000)、自分で作った8種類の音をメモ
リ出来るCS-20M(\210,000)、上位機種で20メモリ、デュアル・ボイスの
CS-40M\320,000)で、このシリーズは1981年に発表された、30メモリ、6音
ポリフォニック、デジタル・ポリフォニック・シーケンサーなどを装備した
CS-70M\890,000)という最上位機種を生み出しています。
さて、CS-70Mが発表された1981年に、一台の画期的なシンセサイザーがヤマハから
発表されました。全く新しい理論でシンセサイズされるその音は、またその製品の
デザインと相まって多くの話題を呼びました。GS-1と名付けられたFM変調方式のそ
のシンセは、重圧感のある木製のキャビネットに納められ、電子グランドピアノと
云った風貌でした。シンセとは云いましたが、音色作りのためのパネルやツマミは
無く、わずかばかりのツマミが鍵盤の上に見えるだけでした。実際音作りをするた
めには4つのモニター画面を持った外部コントローラ(コンピュータ?)が必要で
したが、それ自体は販売されていませんでした。この機種は260万円という価格設定
もあって商業的には成功しませんでしたが、皆さんご存じの様に、その音源技術で
あるFM音源は、後に化け物機種を生み出すことになります。
1983年、DXシリーズというシンセサイザーが大々的に発表されました。プロ、アマ
問わず、まずそのプリセット音を聞いた多くのプレイヤーが驚愕・感嘆させられた
ものです。特にシリーズ中大ヒットとなったDX-7は、液晶の窓、斬新なデザイン、
カセット式の音色ROMやメモリー用のRAM、16音というそれまでのポリ・シンセとは
比較にならない発音数、MIDIの装備、しかも\248,000という価格設定は、アマチュ
アの方でも充分に手の届く価格となり、シンセサイザー史上、現在に至るまで最も
成功した(売れた)機種となりました。このDXシリーズ発売後、○○Xという名の
音源モジュールやシーケンサー、リズムマシーンなどが次々に発表され、巷には
FM独特の金属的な響きを放つ音色が溢れ、一時期、楽器・音楽業界はヤマハの
独壇場とも云われたものでした。
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