Ishibashi Mail Magazine

Ishibashi Mail Magazine Vol.132

スターキー星の「月刊 GUITAR TALKING」第12回

Gibson Vintage 1955年製 Les Paul Gold Top



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 みなさん、こんにちは。スターキー星です!
1955年製のヴィンテージ・レスポールのご紹介をしましょう。

 こちらのゴールドトップは、今も昔も変わらず世界中の多くのギタリスト、音楽ファンに最も愛され続けている「レスポール」モデルの原点といって良いでしょう。1952年に発売された当初のレスポールは、ES-225(発売は1955年)などで知られるようなトラピーズ・スタイルのシンプルなブリッジでしたが、1954年頃にはご覧のようなラップアラウンド・タイプのバーブリッジとなり、その後1956年頃にかけて、ABR-1・チューン・O・マティックへとアップデートされます。P-90ソープバーのピックアップは1957年頃に、セス・ラバーが開発した所謂PU-490、通称PAF-PATENT APPLIED FOR-ピックアップに換装されるまでの仕様となります。

 今でこそジャンルを問わず広範な用途でプレイされているレスポールですが、もともとはカントリー/ジャズ系のギタリストとして活躍していたレスター・ウィリアム・ポルファス(レス・ポール)氏のシグネイチャーモデルとしてリリースされました。

 1916年生まれの彼は幼い頃から音楽への造詣が深く、17歳の頃には既にラジオ番組で演奏をしていました。1930年代はビッグバンドジャズでのニーズなどからエレクトリックギターの研究開発が急速に進んだ時代。リッケンバッカーやナショナル、エピフォンなど様々なメーカーがこぞってエレクトリックギターの開発を進める中、ギブソンでも1936年には最初の正式なエレクトリックギターとしてES-150が発売されています。その名前の通り、脇に抱えて演奏する「"E"lectoric・"S"panish」のエレキギターで当時の価格が$150。チャーリー・クリスチャン・ピックアップを搭載した16 1/4"幅のソリッドスプルース・アーチトップで、レス・ポール氏もそれを愛用していた経緯があります。

 しかし、レス・ポール氏はそれに飽きたらず、「不要なフィードバックを起こさずに、より正確で自然なトーンが出る」ような理想のギターを追い求め、自分自身でギターの開発を進めます。彼は周知の通りエンジニアとしても才能に恵まれており、1940年頃にはエピフォン工場でパーツを寄せ集めた「ログギター」を製作したエピソードが有名ですが、1946年頃からはCMI(シカゴ・ミュージカル・インストゥルメンツ)傘下のギブソンに自分の研究を売り込みを始めました。

 時を間もなくして、ウーリッツァー・オルガン出身のテッド・マッカーティ氏がギブソンに入社したのが1948年のことで、1950年には社長に就任。彼は経営面だけでなく技術面での才覚も表し、ここでレス・ポール氏と共同して行った製品開発はギブソン黄金時代の幕開けとなります。1951年にフェンダーがテレキャスターの前身となるブロードキャスターを発表した翌年のこと、1952年にギブソンはフェンダー・テレキャスターより$20高い、210$の価格設定にてレスポール・モデルを発表します。当時の物価はアメリカ国内でも現在の8倍以上と言われていますので、為替が固定相場制だった日本だと更に一層高価な楽器です。

 電気屋稼業に端を発したフェンダーが、効率的な量産体制を可能にしたデザインを採用。成型した厚板にヘッド角のないネックをネジ止めしたシンプルな構造なのに対して、レスポールモデルは、オーヴィル・ヘンリー・ギブソンによる1894年の創業からのバンジョーやマンドリン、アーチトップ楽器で培ったノウハウを凝縮した「伝統的な楽器」であることにこだわっているのが一見するからに明らかです。どちらが良い悪いではないのですが、いずれもが対照的な哲学を掲げているところのものです。

 ギブソン・レスポールモデルは、ソリッドボディながらも優美なトップカーブを描いており、トラッドなサンバーストではなく、ゴールドトップでフィニッシュを行ったインパクトがあるものでした。ボディにマホガニー材とメイプル材をラミネイトした音響特性は、甘く粘り強いトーンでありながら音像の輪郭は鮮明で、多楽器編成でのバンドアンサンブルも配慮した絶妙なものです。

 レスポールモデル発売当初のブランコ型のテイルピースですと、構造上ブリッジ部でのパームミュートができませんでしたが、本器のようにバーブリッジになった時期のものでしたらそれが可能です。こちらのブリッジは通称「マッカーティー・ブリッジ」と呼ばれ、木部のダイレクトなサウンドが伝わりやすいデザインで、テッド・マッカーティ氏の偉大な発明の一つとして現在でも高く評価されています。ネックジョイントのアングルも発売当初よりやや深くなっており、出音もハリのあるサウンドになりやすい傾向があります。フェデラル・レコードで聴かれるようなフレディ・キングの熱く迸る情熱的なサウンドはその最たるところでしょう。

 こちらは1955年製ですので、ギブソンのヘッドロゴが以後のモデルと比較して、やや低めの位置にあるのでローワーロゴと呼ばれ、またバレル型のスピードノブが配されています。トップのカーヴィングも手作業ならではのユニークで滑らかなもので、約60年の月日を経て大切に愛用されてきたロマンを感じます。抱えたときのバランスやフィーリングは多くの方がレスポールに対して抱いている印象より、ストレスがなく気構えせずとも自然と身体にフィットしてくるような感覚があります。最先端の技術でこれを再現しようとしても、その標準化/平均化された質感とはどうしても違った雰囲気となってくるのが面白いところですね。

 ヴィンテージギターというのは、よくよく「枯れた音」と表現されますが、「枯れた音とは何ぞや」と疑問を持つ方は多いでしょう。率直に言ってしまえば、まさに「木の音」がします。この表現も分かりにくいとは思うのですが、まさに「木」を抱えていて、「木」を握っている感覚なのです。このフィーリングがどこから喚起されるものなのか…、ウッディなサウンドと形容されますが、この温もりや安心感というのは思わず病みつきになってしまうもので、ギターを弾かれる方でしたら是非一度は体感していただきたいと思います。古き良きギブソンの貫禄を実感できるレジェンダリーな一本です。

 さぁ、ギターヘブンの扉をノッキンオン!!




<お問い合わせ>


石橋楽器 渋谷店
TEL 03-3770-1484
shibuya@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、池袋店〜御茶ノ水本店を経て、現在は渋谷店にてインポートギターを担当している。日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてフェンダーのプロダクトスペシャリストに認定されている他、ギブソン・ファクトリーも定期的に訪問して選定買付け等を行っている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、アップトゥデイトな情報のご案内、そして一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。