Ishibashi Mail Magazine

Ishibashi Mail Magazine Vol.110

楽器流行通信第18回




Peavey AT-200


 初心者はもちろんのこと熟練のギタリストでさえ、チューニングという作業には時間がかかるものだ。しかし今回ご紹介するこのPeavey AT-200なら、あっという間に終わってしまう。このギター、自動でチューニングができると謳っているが、外観上は何の変哲もないエレキギターだ。では、どのようにチューニングを合わせているのか。この疑問に答えるために、このAT-200に搭載されているアンタレスのAuto-Tuneについて少しだけ説明しておきたい。

 Auto-Tuneの名はDTMやエレクトロニック系音楽に詳しい人であれば聞いたことがあるだろう。もともとはボーカルのピッチ補正のために使われていたエフェクトプラグイン・ソフトウェアであるが、アメリカの歌手、シェールの「Believe」や、フランスのハウス/テクノ・デュオ、ダフトパンクの「One More Time」などの楽曲で、ピッチを強制的に合わせたようなエフェクティブなボーカル・サウンドを作るのに使用され、一気に有名になった。音程を補正するプラグイン・ソフトの定番として今も進化を続けているAuto-Tuneだが、そのバリエーションとしてギターの音程補正のために新たに開発された「Auto-Tune for Guitar」をギター内部に搭載しているのがこのAT-200なのだ。


 従来の自動チューニングといえば、ペグやテイルピース、ボディ内部等にデジタル制御されたモーターを仕込み、物理的に弦のテンションを変えて音程を合わせていた。しかし、このギターは内蔵されているDSPにより、出音にピッチ補正を掛けるというまったく新しいアプローチでチューニングを合わせているのだ。そのため、どんなシチュエーションでも完璧な音程を保つことができる。

 チューニングを合わせるためのステップはとてもシンプルだ。6本ある弦を開放で鳴らしたとき、レギュラーチューニングであるE-A-D-G-B-E(6弦から1弦)になるように設定されている。ブリッジ部に仕込まれたピエゾ式センサーが、ジャラーンとかき鳴らした6本の弦の振動をとらえる。そこでヴォリュームノブをプッシュすると、内部のAuto-Tuneのシステムが瞬時に音程を検知し、レギュラーチューニングからずれていればその分をピッチ修正してアウトプットするのである。したがって、生音ではチューニングが合っていない状態でも、Auto-Tuneをオンにしたアウトプットの音はチューニングが合っているのだ。

 そして見方を変えると、さまざまなチューニングに対応できることに気づく。開放でレギュラーチューニングになればいいのだから、フレットを押さえてAuto-Tuneを働かせチューニングを合わせたあと指を離せば、押さえていたフレット分音は下がる。それを利用し、より低音を効かせられるドロップDチューニングや、上図のような変則チューニングにも簡単に対応することができるのだ。もう、それ用にギターを複数本持っていかずに済むのである。また、弦のテンションがきつくて指が痛くなってしまうという初心者ギタリストには、少し弦を緩めた状態の柔らかいテンションでチューニングを合わせて、ラクにギターを弾くという使い方もお勧めしたい。

 デジタル処理によるレイテンシー(音の遅れ)はほとんど感じられない。実際に演奏してみるとあまりの自然なサウンドに驚かされる。ボーカル・レコーディング現場で培われてきたAuto-Tuneの技術であるが、今回の「Auto-Tune for Guitar」はギター演奏表現への最適化により、微妙なヴィブラートはもちろん、チョーキングやベンドなどといったギターならではの表現もきちんとこなせる。そして、これだけの処理をギター内部で行っているにもかかわらず、単3電池4本で長時間駆動できることも付け加えておこう。

 アウトプット・ジャック・プレートには、今後登場予定の別売りアウトボックスにつなげられる専用端子があり、ここから電源供給や機能拡張ができるよう準備されている。また将来、Auto-Tuneに新しい機能が追加された場合、この端子を使用してアップグレードできるようにもなっている。

 このギターがあれば、レコーディングの現場でチューニングにかける時間を、もっとクリエイティブな作業に充てることが可能になる。またライヴにおいても、複数の変則チューニングをギターの持ち替えなしに行えるし、チューニングをしている姿を観客に見せるということもなくなるのだ。初心者から中・上級者まで幅広く活用できるギターだと言えるだろう。

※Peavey AT-200はイシバシ渋谷店にて11月販売開始予定。詳しくは弊社HPにてご確認ください。
※収録で使用したギターはプロトタイプのため、市販モデルとは一部仕様が異なる箇所がございます。
ミサワマサヒロミサワマサヒロ・プロフィール
音楽学校メーザー・ハウスにて、矢堀孝一氏に師事。ギブソン・ジャズ・ギター・コンテストのバンド部門にて優勝を果たす。その後、レコーディングやライブのサポートなどで活躍し、イシバシ・バンド・コンテストのイメージ・ソングの作曲&演奏も担当。さまざまなデモ演奏でも活躍するギタリスト。