Ishibashi Mail Magazine

Ishibashi Mail Magazine Vol.100

スターキー星のフェンダリアン 〜Talking Of Fender〜 第9回

Fender USA Vintage 1961年製 Jazzmaster Sunburst




 みなさん、こんにちは。スターキー星です!

 このコラムを読んでいらっしゃる方でしたら、SIONの「12月」という曲はご存知でしょうか。最高に美しい曲で、その歌詞にも唄われていますが、この時期になると、街ではあちこちからジョン・レノンの声が聴こえてきます。私が生まれたときには既にジョンはこの世にいませんでしたが、ジョンの魂は永遠に次の世代に引き継がれていくのでしょう。こんな夜は「ロックンロール」「マインドゲームス」あたりのレコードが聴きたくなりますね。みなさん、ハッピークリスマスを!!

 さて、今回は1961年製のヴィンテージ・ジャズマスターを紹介しましょう。

 ジャズマスターは、1958年に当時のフェンダー最上位機種として発表されました。ボディ・ネック・アッセンブリなど、いずれもストラトキャスターやテレキャスターといった既存のモデルのパーツを流用するのではなく、それぞれ新しいアイデアに基づきデザインされたギターです。

 もともとギブソンのジャズギターへの対抗意識が強く表れているモデルで、そもそもはジャズミュージシャンの購買層をターゲットにした新商品でした。しかし、実際には純粋なジャズ系のギタリストの使用は比較的少なく、60年代のインストゥルメンタル、70年代のニューウェーブ、それ以降はガレージロック、オルタナティブ、グランジなどの分野で愛用者が多かったモデルです。オリジナルは、CBS最終期、1980年頃のラインナップ更改に伴い生産完了となりますが、その後も人気は根強く、2000年頃からフェンダー・カリフォルニア・コロナ工場でリイシューが製作されるようになりました。近年もギターボーカルや歌モノのバンドのサイドギターなどに特に重宝され、ここ1〜2年は新品でも慢性的に品薄の状態が長く続いております。

 ジャズマスターは、ストラトやテリーと異なり、左右非対称にくびれたオフセット・ウェスト・コンターボディが特徴です。ストラトキャスターに先駆ける形で、黒々とした高級感があふれるブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)指板が採用。従来のシンクロナイズド・トレモロに比較して、よりビグスビーライクなマイルドな効果が楽しめるフローティング・トレモロが初めてマウントされたギターで、その構造はパイプ状のアンカーにブリッジスタッドが差し込まれる形状になっています。スタッド先のとがったネジで接地点に遊びをもたせることにより、摩擦係数を減らしチューニングの精度を保った「フローティング」構造になっております。

 そして、ボディ左上部には、フェンダー社の副社長をつとめた経歴を持つ人物、あの「フェンダー・インサイドストーリー」の著者としても知られるフォレスト・ホワイトが20年近くも温めていたアイデアとして、プリセット・サーキットが搭載されています。店頭で「このスイッチは何ですか?」と尋ねられる頻度がナンバーワンのスイッチですが、ソロパートとリズムパートでボリューム/トーン/ピックアップをワンタッチで切り替えられる回路です。現代ではそれほど実用性はないかもしれませんが、この配線もトーンバリエーションを広げることに貢献しています。

 また、後に発表されたジャガーは24インチ・ショートスケールですが、JMはフェンダー標準の25 1/2インチ・ロングスケールで汎用性が高い仕様です。ピックアップはコイルを水平方向に平べったく巻かれた構造で、ギブソンP-90ソープバーに類似した形状のシングルコイルで、ハリのある甘い音色を奏でてくれます。

 今回紹介している一本は61年製ですのでサンバーストは赤の色味が抜けやすい塗料です。ピックガードの下には赤味が残っていますが、全体的にはフェイドアウトしており、ハニーバースト、タバコバーストと呼ばれるような渋い色合いになっています。サドルの溝が弦ごとに異なりますが、これも1961年頃までの初期ならではのスペック。ピックガードのテーパー処理もまた非常に美しい仕上がりとなっています。

 当時のものはスラブボードといわれるローズウッドをフラットに厚くラミネイトされた仕様ですが、この後、木部の収縮率の違いによる不具合を解消することなどを目的として、ラウンドラミネートが採用されるようになります。また指板のポジションマーカーは濁った色味の通称クレイドットから華やかなルックスのパーロイド・ドットに変更。フェンダー社がCBS社に買収される時期と前後して、ヘッドストック・デカールは細字のスパゲッティロゴからトラジションロゴに変更され、ストリングスリテイナーのスペーサーも鉄からナイロンに変更されていきます。またデザイン面でも65年後半にはネックにセルバインディングが入り、また66年頃にはポジションマークがブロックタイプに変更され高級感が高まります。ルックスはもちろんトーンも年式によって傾向が変わりますので、好
みに合うジャズマスターを捜してみてください。

 最近のトレンドとして、ヴィンテージの相場が以前よりだいぶ落ち着いてきていますので、ジャズマスターであれば、少し頑張ればプレイヤーにも十分手が届く価格になってきています。今回紹介したギターも、もちろんヴィンテージならではの扱いの難しさはありますが、それでもオリジナルのヴィンテージ・フェンダーでしか出せない、ウッディで艶っぽい深みのあるトーンは大きな魅力です。他のフェンダーギターにはない、独特の繊細な「甘み」がこのジャズマスターならではで、50年もの時間を経たロマンと貫禄、五感を通じてビリビリと伝わってくるものがあります。歌モノなどのバッキングは言わずもがな、軽やかにドライブするグラマラスなトーンによるリードプレイはとても存在感があり絶品でしょう。

 ちなみに余談ではありますが、私が普段よく着けている時計はハミルトンのジャズマスター・オートクロノ。今はスイスに拠点を移していますが、もともとは1892年にアメリカのペンシルベニアで誕生したブランドです。ジャズマスターという響きにはアメリカンスピリットがみなぎっていますね。

 コレだけおさえておけば、今日から貴方もフェンダリアン!!




<お問い合わせ>


石橋楽器 御茶ノ水本店
TEL 03-3233-1484
ochanomizu@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、御茶ノ水本店にてインポートギターを担当している。特にフェンダー・ギターへの造詣が深く、日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてプロダクトスペシャリストに認定されている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。