Ishibashi Mail Magazine

Ishibashi Mail Magazine Vol.96

スターキー星のフェンダリアン 〜Talking Of Fender〜 第5回

Fender USA 1966年製Vintage Mustang Blue



      

 みなさん、こんにちはスターキー星です!

 8月1日、ついにフェンダーカスタムショップから、Char Signature Stratocaster “Charizma” がプレスリリースされました。 中学生の頃から既にスタジオミュージシャンとして活躍していたチャー氏。「SMOKY MEDICINE」を経て、1976年にはセンセーショナルなソロデビュー、「JOHNNY, LOUIS & CHAR」「ピンククラウド」「PSYCHEDELIX」「BAHO」などでの輝かしいキャリアを経て、常にミュージックシーンの第一線で活躍してきたスーパーギタリストです。

 近年ではZiccaレーベルでのTRAD ROCKシリーズのアルバムも大好評、そのアグレッシブでスリリングなプレイスタイルは常に数多くのギタリストの注目の的であり続けています。サーフミュージックからブルースロック、ファンク、R&B…様々なエッセンスが溢れ出す縦横無尽なプレイスタイル。まさに日本を代表するカリスマ・トップギタリストならではでしょう。今回のシグネチャーモデルは限定製作ということもあり、発表と同時に「あっ」という間に石橋楽器店入荷予定数が予約完売してしまいました。さすがに人気がずば抜けています。

 さて、チャー氏といえば、ストラトの他にもやはりムスタングのイメージが強いでしょう。特に、1976年のアルバム「Char」に収められた「Smoky」はギタリストなら誰しもがコピーを試みたことがある名曲ですが、あのコードカッティングとアーミングの醍醐味はムスタングならでは。ちょうど御茶ノ水本店にコンディションの良いムスタングが入荷してきましたので今回は44枚の画像をたっぷりご覧いただきながら、簡単にその解説をしてみたいと思います。

 フェンダー社から1956年に発表されたミュージックマスターやデュオソニックという入門機種。そのワンランクグレードが高いモデルとしてムスタングが発表されたのが1964年のこと。フェンダー社がCBS(Columbia Broadcasting System)社に買収される直前の出来事であり、「プリCBS期(オリジナル・フェンダー期)最後のモデル」として日本国内で特にファンが多いモデルです。ムスタングには21フレット仕様22 1/2インチスケールの個体も存在しますが、多くは22フレット仕様24インチ・ショートスケールを標準仕様としています。これは当時の最上位機種であったジャガーと同様のスケールですね。
 くびれたボディ形状、いわゆるオフセットウエストボディにポールピースが露出しないカバーのシングルコイルを2基マウント、とてもシンプルな構造の「ダイナミックトレモロ」が搭載されているのが特徴的です。1969年以降に製作されたモデルにはストラトキャスターのようにプレイヤーの体にフィットしやすく面取りされたコンター加工が施されていますが、それ以前のモデルはテレキャスターのようなスラブ(厚板)ボディで仕上げられています。

 それでは各パーツを概観してみましょう。

<ヘッド>
 ヘッドデザインですが、初期のものはやや小ぶりながら、1965年後半になると24インチスケールモデルのペグヘッドは少しサイズが大きくなります。ストラトほどその違いがはっきりしているわけではありませんが、先端部を見ると丸みが一回り大きくなっていることが分かります。
 また、一見すると同じように見えるトランジションロゴ(トラロゴ)のデカールでもパテントの数は、かなり複数のパターンが存在しております。今回ご覧いただいているような1964-1966年製のムスタングには前述のコンター加工が施されていないのですが、間違えて(?)「コンターボディ」のデカールが貼られています。これは通常1967年以降には貼られなくなり、実際にコンター加工が施されるようになる1969年以降再び貼られるようになります。ウィング形状のストリング・スリテイナーにはストラトやテレキャス同様、1964年後期になると鉄製ではなくナイロン製のスペーサーが挟まれるようになります。

<チューナー>
 チューナーはギアカバーの刻印がシングルライン、そしてダブルラインのクルーソンペグを経て、1965年後期にはF-keyチューナーが採用されます。ペグの裏にFenderの頭文字「F」が刻印されており、八角系の角ばったデザインのボタンが特徴です。この当時はまだドイツのシャーラー社製のものではなく、フェンダー社カリフォルニア・フラートン工場の近隣にあったレイス・アンド・オルムステッドRace & Olmstedという会社などで製作されたものが使用されていたそうです。
 クルーソンペグに変わってF-keyが使用されるのはジャズマスター/ジャガーで1966年頃、ストラトでは1968年頃からですので、それに先駆けて採用されたことになります。60年代のムスタングのF-keyは白いプラスチックボタンというのもかわいらしいポイントですね。

<配線>
 ミドルクラスモデルながらキャビティはブラス板でシールド加工がされています。本器のポットは250kΩオーディオテーパー、アルミのソリッドシャフトのもので、デイト刻印は304-6631。304というのはアメリカの工業コードでスタックポール社を示しており、その後に続く数字は「1966年の第31週」にそのポットが製作されたことを示しています。工場内で大量にストックされることが少ないパーツですので、こういったポットデイトはオールドギターの製造年式判別に大変有用です。また、キャパシターは通称「サークルD」と呼ばれているもので、ダイレクトロンDilectronという会社によるセラミックコンデンサ、0.05MFD50V耐圧のものです。比較的クセの少ないクリアーなトーンで人気が高く、近年では現行のギターに載せかえる方も増えています。
 ジャックは1946年からのシカゴの老舗スイッチクラフト製。スライドスイッチはパラレルミックスだけでなく、フェイズアウトサウンドも出せるように配線されており、この時期ですとスタックポール社製のものが採用されています。ピックアップはグレーボビンに手書きのデイトが記されており、エナメル被膜のワイヤーでフラットなポールピースであることが確認できます。

<ネック>
 ネックの裏側を見ると、4弦ペグ部分とネックジョイント右上部分にはテンプレート取り付け用の治具穴が確認できます。他モデルのネックにも共通ですが、こういうところにはやはり温もりを感じますね。ネックデイトは16JUN66Bというスタンプ。最初の16というのは日付ではなく、モデルコードを指し示します。製造時期によりますが、8と16はムスタング用であることを示します。その後ろの部分が1966年のJUNE(6月)に製作されたことを表しており、「Bネック」というナット幅1 5/8インチ(約41.275mm)の標準的なネックシェイプであることが分かります。
 ちなみに初期のムスタングにはスラブボードというフラット貼りのローズウッド指板が多く見られることが知られており、1962年以前の古い治具が使用されたというのが通説になっています。今回紹介しているのはラウンドラミネイトのもので、ラウンド貼りのほうが指板のローズウッドが薄いのでどちらかといえば、軽やかな音色になりやすい傾向があるといえます。またポジションマークも1965年にはそれまでの濁った色味のクレイドットから、よりゴージャスなルックスのパーロイドマーカーに変更されています。

<塗装>
 塗装に関しては、1969年頃からコンペティションストライプが入ったフィニッシュが登場し、70年代に入ると大幅にカラーバリエーションが増えるのですが、発売当初はブルー/レッド/ホワイトのみのラインナップだったそうです。1963年以前のようにボディにピンを突き刺して塗装するのではなく、ネックポケットにハンドルを取り付けてラッカーを噴く手法が取られているのが画像で確認できますね。
 カラー表記はブルー/レッド/ホワイトとシンプルですが、それぞれダフネブルー(Duco社のナンバー2804)、ダコタレッド (Duco社のナンバー 2590-H)、オリンピックホワイト(Lucite社のナンバー2818-L)に準じる色合いで、ブルーやレッドにはパーロイドのピックガードと黒いプラスチックパーツが、ホワイトにはトータスシェルのピックガードと白いプラスチックパーツがコーディネイトされています。塗料に関しては、他モデル同様、1968年頃からネックがポリエステルのフィニッシュに変更され、その後ボディのラッカートップコートの下塗りもポリエステルを使用した丈夫な「シック・スキン・フィニッシュThick Skin Finish」に変更されます。

<ブリッジ>
 ブリッジはムスタングの最も大きな特徴の一つで、ベースプレート下部に収められた2本のバネでテイルピースが傾くというシンプルな機構の「ダイナミックトレモロ」が搭載されています。ジャズマスターやジャガーの「フローティングトレモロ」同様にブリッジアンカーのスタッド先端が尖っており、そこが支点となることでブリッジサドル部の摩擦を軽減し、チューニングの狂いを最低限に抑えるデザインになっています。ダイナミックトレモロという名前の通り、軽いタッチでトリッキーに音程が変化をするトレモロのかかり具合はまさに「野生馬-マスタング-」。これを使いこなすのはなかなか難しいですが…。
 ブリッジサドルは6wayタイプで指板のRに合わせて弦高がアーチを描くようになっています。ジャズマスター/ジャガーの弦落ち防止のためにスパイラルサドルをムスタングサドルに交換して使用するプレイヤーも多く、各メーカーから様々なリプレイスメントパーツが販売されています。

 以上、簡単ではありましたが、こうして細部を見ていくと、ムスタングもまたやはり、とても合理的でアメリカンなフェンダーを象徴するギターであることを再認識させられます。ムスタングは1982年にフェンダー社の体制が変わるのに伴い製造中止となりました。他のフェンダーモデルと異なり、それ以来、現時点ではUSA工場でいまだにリイシューモデルが製作されていませんので、基本的にはオリジナルを捜すしかありません。ただし、もともとミドルクラスモデルということが幸いして、比較的お手ごろな価格で手に入りますので好みのカラー、サウンドキャラクターで選び歩くのも楽しいと思います。

 近年ミュージックマスターやデュオソニックの人気が急騰しています。「BECK」、「けいおん!」、「ソラニン」などでも話題になっているムスタング。ヴィンテージ/セミヴィンテージは絶対本数が少ないため、欲しいと思ったときに手に入れておかないと後悔することも多いです。ショートスケールでシンプルなデザインゆえの取り回しの良さとともに、古き良きフェンダーならではのウッディで深みのあるトーンはオリジナルでしか出せません。老若男女問わず、気軽に爪弾くギターとして最適だと思います。まさにレジェンダリー!

 コレだけおさえておけば、今日から貴方もフェンダリアン!!





<お問い合わせ>


石橋楽器 御茶ノ水本店
TEL 03-3233-1484
ochanomizu@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、御茶ノ水本店にてインポートギターを担当している。特にフェンダー・ギターへの造詣が深く、日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてプロダクトスペシャリストに認定されている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。