Ishibashi Mail Magazine

Ishibashi Mail Magazine Vol.94

スターキー星のフェンダリアン 〜Talking Of Fender〜 第3回

MBS Eric Clapton Stratocaster Black “Blackie” built by Mark Kendrick




 みなさん、こんにちはスターキー星です!

 さて、ご存知の方も多いかと思いますが、ビッグニュースが発表されました。エリック・クラプトンの来日公演です。私自身、最も敬愛するギタリストの一人・・・今回も先行予約開始と同時にチケットをゲットしました。2011年11月〜12月にかけて、札幌、横浜、大阪、福岡、広島、金沢、名古屋、東京、と現在発表されているだけで8会場12公演、1974年以来19回目のジャパンツアーですが、一度のツアーでこれだけ全国津々浦々、南北東西を駆けめぐる日程が組まれるのは今回が初めてです。

 クロスロードギターフェスティバル、マディソンスクエアガーデンライブで共演を果たしたトラフィック/ブラインドフェイスのスティーブ・ウィンウッドとの来日ということで「Presence Of The Lord」「Can't Find My Way Home」「Had To Cry Today」が生で聴けるかと思うとそれだけで今から大興奮です。ドラムは2003年以来となるスティーブ・ガッド、ベースは前回同様ウィーリー・ウィークスの予定。この最高のリズム隊にキーボードがおなじみのクリス・ステイントンときましたので今回は絶対に見逃せません。

 そんなわけで、今回紹介するギターはこちらです。フェンダーカスタムショップのシニアマスタービルダーであるマーク・ケンドリックが手がけたエリック・クラプトンストラトキャスターです。私が今年の4月にカリフォルニアのコロナ工場で買い付けを行った一本で、非常に稀少なモデルとなっております。

 マーク・ケンドリックは1990年からフェンダーのカスタムショップに在籍しており、伝説的な名工ジョン・イングリッシュ亡き後、カスタムショップ・ブランドを牽引してきたリーダー格のビルダーです。フェンダー社に勤務していた叔父の影響から、フェンダー社の元副社長フォレスト・ホワイトに才能を見出された人物で、ミュージックマン〜G&Lでの勤務を経るなかで着実に経験値を高めた超実力派です。

 彼はクラプトンの愛車のカラーをモチーフにしたメルセデスブルーフィニッシュのストラトキャスターを製作したことや、当時カスタムショップの責任者であったジョン・ペイジ、マスターアーティザンのジョージ・アミケイとともにモントルーのレジェンズライブでおなじみのゴールドリーフ・ストラトキャスターを製作したことでも有名ですね。日本国内でもとても人気の高いビルダーでしたが、2010年の春よりFMIC(Fender Musical Instruments Corporation) 製品全体の品質管理を統括するポジションを担当しており、惜しまれながらもマスタービルダーの業務を離れております。マークが最後に手がけたクラプトンストラトが今回ご覧いただいているギターということになります。

 ミスター・スローハンドの愛器といえば、1970年代初頭にテネシー州ナッシュビルの楽器店で購入した複数本のストラトキャスターのパーツによって組み上げられた「ブラッキー」が最も有名でしょう。2004年にはクリスティーズのチャリティーオークションに出品され、アメリカの大手楽器店チェーン「ギターセンター」によって95万9500ドル(約1億1,200万円)という超高額で落札され、フェンダーカスタムショップからレプリカモデルが製作されたことは大きな話題となりました。

 そもそもクラプトンがストラトを使い始めたきっかけは、ジミ・ヘンドリクスやスティーブ・ウィンウッドの影響が強かったと言われています。オリジナルブラッキーは、1973年のピート・タウンゼントらとのレインボーコンサート以来、かなりの頻度で使用され、ルックス・サウンドともにレイドバック期のECのトレードマークとなっています。度重なるレコーディングや過酷なライブツアーで弾き込まれたブラッキーは、「ビハインド・ザ・サン」を発表後の1985年コネチカット州ハートフォードでの公演を最後に表舞台から引退することになりました。

 多少前後する部分がありますが、その時期にフェンダー社は、そのブラッキーの代替となるモデルの開発を行います。1983年に発表され、およそ2年あまりで生産完了となった「エリートストラトキャスター」という、サイドジャック仕様でフリーフライトと呼ばれる特殊なトレモロ機構を備え、プッシュスイッチでピックアップセレクトするという珍品(?)がモチーフにされています。ちょうど1987年のフェンダーカスタムショップ発足のタイミングとも近くなりますが、ドン・レース、マイケル・スティーブンス、ジョージ・ブランダ、ジョン・ペイジらといった精鋭によってデザインされた力作です。

 フェンダー社初の正式なミュージシャン・シグネチャーモデルとして発売されることとなったそのストラト。クラプトンモデルの最大の特徴といえば、通常のフロントトーンの位置にTBXと言われるハイカットだけでなくローカットができる二連ポットのトーンサーキット、ミドルトーンの位置に25dbのアクティブミッドブーストが搭載されていること(前述のエリートストラトは12db)。初期のものはレースセンサーピックアップをマウントしており、「ジャーニーマン」のアルバムなどで堪能できる甘く滑らかなトーンが際立ちましたが、2000年代に入るとピックアップがアルニコ5マグネットのスタック構造によるヴィンテージノイズレス・ピックアップにアップデートされ、以前よりトラディショナルなサウンドにシフト。現在でも定番の人気モデルとなっております。

 ECモデルは、他のアーティストモデルと異なり、クラプトンファンならずとも、多くのプロミュージシャンが愛用しているギターです。故・大村憲司氏の使用は特に有名ですが、セッションミュージシャンにも愛用者が多い傾向があります。ヴィンテージスタイルより1フレット多く、まさに痒いところに手が届く22フレット仕様、ややフラットでフィンガリングが容易な9.5インチR指板を配しており、手元で必要十分なサウンドメイクが可能な懐の広さと利便性の高さ。シンプルに楽器としてのトータルバランスが良く、従来のフェンダーギターの域を大きく越えたサウンドクリエイトを可能にするポテンシャルがひとつ人気の大きな所以でしょう。

 ご覧いただいているクラプトンモデルは、やはりマスタービルトならではの風格が漂っております。よくマスタービルトとレギュラー品の違いについて、尋ねられますが、MBSは十分なシーズニングを施されたハイグレードな木材のストックの中から、特に最良の材がハンドセレクトされており、ヴェテランビルダーがこれまで積み重ねてきた長年のキャリアの中で蓄積したノウハウ・こだわりが反映させられています。じっくりと丹念に仕上げられており、まさに「トップ・オブ・ザライン」の名にふさわしく、その気にさせられるギターです。

 近年のマスタービルトのクラプトンモデルは、J.W.ブラックの仕事を引き継いだ、トッド・クラウスが製作することが多くなっています。トッドがジャクソン/シャーベル出身ということもあって、どちらかといえば、クリアーでロックテイストの強い作品が多いとすると、マーク・ケンドリックが製作したこちらの個体は、より端正でメロウな印象を受けます。どこか物憂げで、フェンダーらしい深みのあるトーンが魅力的でおすすめです。

 ただいま石橋楽器御茶ノ水本店ではクラプトン来日を記念して関連商品の品揃えを強化中です。クラプトンモデルに関しましては、マスタービルトのほかチームビルトのモデル、レギュラーファクトリー製のモデルまで、アウトレット品・中古品を含めご予算に応じてご案内可能ですのでお気軽にお問い合わせくださいませ。

 コレだけおさえておけば、今日から貴方もフェンダリアン!!





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石橋楽器 御茶ノ水本店
TEL 03-3233-1484
ochanomizu@ishibashi.co.jp

<スターキー星:プロフィール>
 プロフェッサー岸本の愛弟子であるデューク工藤に師事、御茶ノ水本店にてインポートギターを担当している。特にフェンダー・ギターへの造詣が深く、日本国内最高レベルのノウハウを持ったスタッフとしてプロダクトスペシャリストに認定されている。彼自身のフェイバリットミュージックはブルースやブルースロックが中心で主に60〜70年代ロックを愛聴。
 皆様がますます充実したミュージックライフを送れるよう、一生愛用できるギター捜しを親切丁寧にお手伝いたします。