サウンド&マテリアル徹底解説! ヴィンテージ50s & 60sフェンダーベース特集サウンド&マテリアル徹底解説! ヴィンテージ50s & 60sフェンダーベース特集

世界初の量産型エレクトリックベースとなるプレシジョンを1951年に発表したフェンダー社は、今なおエレクトリックベースのスタンダードであり多くのメーカーがフェンダー製品のリペアや改造から新たなブランドを立ち上げていき、今のベース市場が出来ていると言っても過言ではありません。

そのフェンダー社の1950年代から1960年代の黄金期と言える貴重なヴィンテージモデルを、ベーシスト・須長和広氏の演奏とイシバシ楽器ヴィンテージスペシャリスト・望月の徹底解剖によりご紹介致します。

Fender Electric Bass

フェンダー社が1949年前後に世界初の量産型エレクトリックギターとなるエスクワイヤーを発表した約2年後に、このテレキャスタースタイルを基にネックの長さに合わせてボディサイズも一回り大きくし、"Precision"という「正確「精度」と言った意味合いを持つフレッテッドのエレクトリックベースをフェンダー社が発表したのが1951年。

この時代音楽の記録媒体であるレコードでは、片面で約4分30秒程度の録音が可能であったSP(Standard Play)盤から、塩化ビニール製による12インチの片面で約24分の再生が可能となったLP(Long Play)盤がコロンビアレコードから1948年に発売され、音楽の多様化とともにアルバム制作のコンセプトも大きく変容していく時代となりそれに合わせ使用される楽器、機材も進化していくこととなります。

フェンダー社がプレシジョンを発売するまではジャズ、ブルース、カントリー等様々なジャンルでウッドベースが使用され、正確なピッチでの押し弦と奏法により高度な技術が要すること、またアコースティック楽器のため低音を響かせるために大きなサイズを要するボディにより奏法、持ち運びの両面において専門的な分野であったベースを、フレッテッド&ソリッドボディの組み合わせにより多くのミュージシャンにとってベースギターをより身近な楽器へと昇華させ、フェンダー社がエレクトリックベースを開発していなければ、今日のミュージックシーンは違っていたと言えるほどこの発明の影響は計り知れないものがあります。

Fender / 1958年製 Precision Bass Sunburst with Gold Anodized Pickguard S/N 026536

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須長さんコメント

今回の企画で50年代の楽器を初めて弾いたのですが、弾く前までは当時の音源のようなサスティーンがなくボンッボンといったウッドベースのようなトーンをイメージしていたのですが良い意味で裏切られました!
深みのあるトーンの中にギラッとした高音が抜けてくるサウンドに驚きました。
これまでに体感したことないこの個体にしか出せないソリッド感と低音感で、アンサンブルの中でも埋もれないだろうという印象を受けました。
メイプル指板ということもあり60年代とはまた違った個性的な楽器です。

SERIAL NUMBER : 026536
WEIGHT : 4.02kg
NECK DATE : 7-58
BODY DATE :7/58
POT DATE : 304-748
WITH ORIGINAL TWEED CASE

1951年に発表された世界初の量産型エレクトリックベース、プレシジョンは、エスクワイヤー、テレキャスターのベース版と言えるボディ、ピックアップ構造、ヘッドストックシェイプを持ち、その後少しずつ変化していく。1954年にはボディのエッジ部分に丸みが付き、エルボ、バックコンターが施され、1956年頃からストラトキャスター同様ボディ材がアッシュかラアルダーに変更され、ピックガードもテレキャスター同様ブラックからホワイトに変更される。またスタンダードカラーがブロンドから2トーンのサンバーストに変更されるのも1956年前後からとなります。

その後最も大きな仕様変更と言えるストラトキャスターに似たヘッドストックシェイプ、コントロールパネルと一体化し大きな面積を持ったゴールドアノダイズドピックガードにスプリットピックアップ、よりシャープになったボディ形状となったのが1957年。本器はその後赤みが足された3トーンサンバースト期の1958年製となります。

ネックデイトは7-58となり、これは1958年7月を意味します。「Fender Precision Bass」のヘッドストックデカール。1964年後半にトランジションロゴへと変更されるまで使用されたプリCBS期モデルの象徴と言える通称スパゲッティロゴ。ネックはⅠピースのメイプル材が使用され、翌年の1959年中旬以降に接着面が平なローズウッド指板となる通称スラブボードネックへと変更されます。

また1950年代は1960年代モデルよりも薄い塗装により細かいウェザーチェックが入ることも1950年代モデルの特徴と言え、それによりネック、ボディの鳴りがダイレクトに伝わってきます。

ネックポケット全体に吹かれた塗装が確認できます。1963年中期まではボディトップ、バックに数カ所釘状のものを打ち込み支えを作ることによって作業台の上で塗装を吹いています。吹いた面を下にした際に作業台に当たらないようにして塗装を乾燥させるためのもので、その後釘状のものを抜きます。そのためボディトップ、バックにはこのネイルホールと言われる穴の跡が残り、ピックガード下にもそのネイルホールが確認できます。ネイルとは爪のことではなく、同じ「nail」のスペルですが、釘や鋲(びょう)を意味し、そのネイルを使用した穴の跡からネイルホールと呼ばれます。

1957年から変更された1、2弦と3、4弦が分けて構成されるスプリットピックアップ。これにより各弦の出力を微調整することが可能となり、1955年までのオリジナルシングルコイルピックアップと比べより深みのある低音と張りのある高音を実現。また各弦に対して2つのポールピースで挟み込むことによって、ダウン、アップ両方のピッキングに対して弦振動を確実に拾うことができ、格段に深みのあるベーストーンを作り出しています。3、4弦用のポールピースだけピックアップカバーよりも飛び出しているのもこの時代のプレシジョン特有のものとなり、各弦の出力バランスを考慮しての仕様となります。

ピックアップ下にはノイズ対策用となる銅版のプレートがり、ピックアップの高さ調整用のスポンジが挟み込まれています。さらにピックアップキャビティの銅版プレート下にボディデイトが入れられています。ボディデイトは「7/58」となり、ネックデイト同様1958年7月製造。1950年代は1960年代と比べ生産数も少なく、1ロットのオーダー数が入るまで木材がキープされるカスタムカラーを除くと、ボディとネックのデイトが近いものが多い。また、ボディデイトは1963年までボディに鉛筆書きされているが、1963年以前のモデルでもボディデイトの無いサンバーストフィニッシュの個体が確認されています。

4弦側ピックガード脇には親指を置いていたと思われる跡が残り、木部がえぐれるほどのへこみがあり、長く使用されてきた個体であることがこの傷跡から分かります。ブリッジはこちらも1957年のスペック変更時に採用された各弦ごとの4つのスパイラルサドル方式。オリジナルの1、2弦、3、4弦用の2つのブラスサドルからの変更で、これにより各弦のオクターブピッチ調整が可能となりました。またボディ裏通しの弦はこのブリッジ変更に伴いプレートエンド部分から通すトップローディングスタイルとなり、その後はこの仕様が長く使われることとなります。

エスクワイヤー/テレキャスター同様発表時から使用されているクロームメッキ処理が施された円柱型の金属製コントロールノブ。最初期の上部の丸みが強い通称ドームノブから、1956年頃から使用された上部が平面の通称フラットノブに変更され、本器もそのフラットノブが装着されています。ボリューム、トーンともにオリジナルのポットのまま残っており、ポットデイトは「304-748」。これはスタックポール製1957年48週目の製造となり、その後1958年頃からは137から始まるCTS製がメインで使われることが多くなります。一部配線修正が行われていますが、オリジナルパーツによるアッセンブリーはヴィンテージ好きからするとやはり嬉しいポイントです。

ボディバックにはベルトのバックルの擦れにより広範囲の塗装剥げが確認できます。このような傷はバックル傷と呼ばれ、実際にプレイヤーに使用されてきた証でもあります。このボディバックの傷からは使用されたアルダー材と、この時期の塗装行程であるアルダー材の脱色からイエローのアンダーコート、その後のサンバーストフィニッシュの層を見ることができます。また、ボディバック下部にはネイルホールが確認でき、ボディトップ側のピックガード下とは違い、隠すことができないことからネイルホールは木材で埋められます。

1951年の発表時から1953年まではスラブボディと言われるコンター加工のない平らなボディ形状であったが、1954年からボディエッジ分の丸みに加えてエルボ部分、ボディバックの腹部がある部分が緩やかなカーブに沿って抉られる加工が施されます。ちょうどストラトキャスターが発売される時期であり、テレキャスターでのボディ形状からプレイ時のボディフィットを考慮したボディ形状がプレシジョンでも採用されたことが考えられます。エルボ部分、ボディバックともに1960年代前期頃からはカーブが緩くなり、全体的に厚みが増していく形状となり、コンター形状による全体での重量の違いによるサウンドの影響も見逃せません。

1958年製の本器は、1951年発表の最初期モデルからボディ形状、ピックアップ、ピックガードの変更が見られるところから第3期スペックと言われる仕様ですが、最大の特徴はレッドカラーが加わった美しい3トーンサンバーストに、癖のないラウンドシェイプの1ピースメイプルネックである点です。この人気の高いスペックは、1956年からローズウッド指板へと変わる1959年前期までのわずか3年間となり、さらに3トーンサンバーストは1958年から1年半の短い期間に製造された貴重な1本です。また、1ピースのメイプルネックは、その後のローズウッド指板モデルりも硬い音色のイメージを持たれますが、そのトーンはパワフルなサウンドで図太いトーンでありながら高音までのバランスが良く、コンター加工が施された体にフィットするボディ、薄い塗装によるダイレクトな木部の鳴り、スプリットピックアップによる以前とは格別の出力バランスと深みのある低音、独立サドルによる正確なピッチとその後のジャズベースに引き継がれ現代までそのスペックが継承される完璧なスタイルを確立した黄金期のプレシジョンはエレクトリックベースのスタンダードであり、是非一度その極上トーンを堪能していただきたい逸品です。

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Fender / 1966年製 Jazz Bass Candy Apple Red Matching Headstock S/N 120419

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須長さんコメント

弾いてまず最初に思ったのがバランスが素晴らしいです。
4弦開放からハイポジションまで音が詰まるところも無くこのまま調整なしですぐ使える非常に良い個体です。
楽器選びの基本で当然の事ですが、古い楽器は個体差が如実に出るのでとても重要なところをクリアしています。
アンプで鳴らした音は当然ながらヴィンテージトーンを持ち合わせつつ、いかにもジャズベースらしさのトーンで音も抜けてくる。
60年代初期のジャズベースと比較するとほんの少しだけ帯域が上がり明るい印象を受け、その分音作りがしやすいし昨今の音楽にもどんな音楽にもマッチすると思います。この音が嫌いな人はいないし、まず間違いないです。

解説は近日公開

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須長和広氏/Sunaga Kazuhiro プロフィール

須長和広

1981年6月6日 葛飾区出身、B型
aiko、松任谷由実、東方神起等、邦楽最前線のシンガーのサポートベーシストとしてだけでなく、自身のソロ作品や、クラブジャズの先駆的存在であるquasimodeのベーシストとしても活躍。

1st album 『MIRROR』1st album 『MIRROR』 NOW ON SALE
Label : Universal Music / Blue Note
Catalog No. UCCQ-1046
Release Date : 2015.09.09.

オフィシャルサイト

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