多くのスピーカーは必ずバッフル板、または
ボックスに取付けられている。これはスピーカーの
破損を防ぐための単なる保護のためではなく、音
響理論に基づいた特性改善のためのものである。
音波は波であり、空気中では空気を媒体とし、
圧力の変化、即ち空気の密度を疎、または密に変
化しながら進む。スビー力ーの振動板の振動はぞ
の現象を周波数に応じて与えている事に他ならな
い。そこで波である音源の波長を考えてみよう。
音の速度は空気中で、温度θ℃、1気圧において
次の式で与えられる。
●C=331+0.61θ m/sec(49式)
即ち20℃において昔速はC≒343m/secとなる。
この音速は周波数に依存しない。たとえば1Hz
の音は1秒間において1回振動し、343m進むこと
になる。図IV‐31からわかるように1Hzの波長は
343m、2Hzでは171.5mであり、1,000Hzでは
0.34mである。前述のように、指向性は振動板の
径に応して周波数が高くなる程鋭くなるが、低音
域においてはほとんど指向性を有せず、全方向に
ついて同じ大きさの音圧を放射する。スピーカー
を1枚の円形の振動板であると考え、図III‐31のよ
うに振動板が動いたとすれば、動いた方向に存在
する空気は圧力を受け密になる。しかし全く同時
に反対側では疎になっている。即ちスピーカーの
前面と後面では全く逆の現象を引き起こして、指
向性のない低音域では全方向にこの疎密波は伝わ
ることになり、それぞれが打ち消し合う。つまり
振動板が振動するにもかかわらず干渉のために音
波は発生しない。したがって、スピーカーの前面
と後面を何らかの物体を用いて分離してしまう必
要がある。この前後をさえぎるものをバッフル(図
III-32)と呼んでいるが、その大きさは一体どれだ
け必要であろうか。図III‐33のように比較的小さい
パッフル板を取り付けたとすると、その寸法と音
波の波長との比により前後の遮断をなし得る周波
数範囲は決定してしまう。たとえばバッフル板が
円形であるとすれば、その直径と等しくなる波長
や整数倍になる周波数付近では相互干渉により音
圧は著しく低下する。また直径と等しくなる波長
より低い周波数では干渉が生じ、音波は弱まる。
正方形バッフルの中心にスピーカーを取り付けた場
合の特性を図III‐34に示す。中心に取り付けると前
後面の音の通路の長さがほぼ等しくなり、それだ
け千渉の影響も大さい。このためバッフル板は長
方形にし、なるべく不規則な位置にスピーカーを
取り付けるように留意じなければならない。
- a)後面開放型ポックス
-
スピー力ーの低域再生限界は、最低共振周波数
により決定してしまうことを述べたが、極端な低
域を再生しうるスピー力ーを用いて、その再生を
希望するならば、想像を絶するような大きなバッ
フル板が必要になり、全く実用的でない。このた
めできるたけバッフルを大きくするように考慮し、
また不便さを取り除くように図III-35に示すような
後面開放型ボックスが考えられた。このバッフル
の後面は一種の筒のような働きを示し、その深さ
に応じて共振現象が表われる。また後面からも実
際に音は放射され、種々の用途や、用いる部屋に
よっては、不便さや特性上の間題を生じてくる場
合もある。
- b)密閉型ポックス
- 現在ではほとんど図III-36に示すような密閉型ボ
ックスが主流をなしている。そして主に低音域の
問題に関じてのみであるが、必要に応じて種々の
工失がなされている。
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