Academic Zone > エレクトリック・ギター > ボディとその他の振動


ボディとその他の振動


●ボディの振動 ●ボディと弦振動の関連性 ●板の振動
●ボディの解析の問題点 ●ボディの材質

●ボディの振動

アコースティック・ギターのボディは、弦の振動によりブリッジ またはテールピースを介して励振される。 ボディの表面板、側板、裏板からなる共鳴胴は、 弦の振動エネルギーを受け音響エネルギーを放射する。 即ちアコースティック・ギターのボディは、弦振動によって引き起こされる振動を、 巧みに音響的成分に変換できるようなシステムでなければならない。
電気ギターで主流をなすソリッド・ボディは、それ自身さほど音響放射板ではない。 それは生音の小さいことからも明らかであり、 実際にその名が示すごとく音響エネルギーへの変換は、ピックアップ、 アンプ、スピーカーを用い電気的になされる。この事は弦の振動エネルギーを、 他の部分に伝えず損失をなくした方が電気的処理は容易になることを示している。 しかし、もともと表面板にエネルギーを伝えるものであるブリッジ、 テールピースは、ボディがソリッドになったとしても、 その原理に普遍性はなく、ソリッド・ボディ自体も振動体である。
この世の中に存在する物体は、質量を有し、弾性を有する以上 振動を逃れるわけにはいかないのである。 即ち、大部分は弦振動を、電気振動に変換するピックアップや その他の電気的処理に依存される電気ギターの音でも、 ボディの材質や形、他の構造をなす要素に影響を受ける事になる。 ここではボディの材質とその物理的特性に関していくらか考えてみることにする。

●ボディと弦振動の関連性
→右の図のように弦が両端で完全に固定されていないとすれば、 弦振動のところで述べたように解析的に考える事ができる。












今ブリッジやテールピースが取り付けられているボディを 一つの質量とバネ系で表わすならば、←左の図のように考える事ができる。 この時、ナットや糸巻きのヘッド部はあえて考えないが、 同じように考えることはできる。
弦の多くの単一振動系の集積として考えることができることを述べたが、 それを加味すると右の図→の様な機械系等価回路が想像できる。
ここでmとkの値により振動系には大きな変化が生じてくる。 振動周波数も異なり、当然振動波形は著しく変化を見せる。 しかし弦の質量m0や張力R0に比べ、極端にmやkが大きいならばその影響は、 微少なものとなって行く。 ソリット・ギター、セミ・アコースティック・ギター、 アコースティック・ギターの違いはこの事に依存する。 即ち弦振動によって与えられるエネルギーがどのような種類、 方向に伝えられていくかである。
セミ・アコースティックの電気ギターでは当然 ソリッドなギターとは違う音色を発生するが、 結局弦との連成振動による違いが生じてきているものである。 またボディに取り付けられたピックアップは、 それ自体ある程度の振動を生じ、 弦振動との相対的なものが出力となっている。
以上は簡単な原理に基づく予想である。弦は人工的に製造され、 その等価回路における物理的定数も逆に設計する事ができる。 しかし大自然の中で形造られる多くの物は、 その内部を詳細に探ることは困難である。 実際のボディはその材質により極めて複雑な振動系を構成していると考えられ、 その等価回路もまた一筋縄では行かない。 したがって簡単な理論と多くの人の経験により予想せざるを得ないのである。

●ボディの振動 ●ボディと弦振動の関連性 ●板の振動
●ボディの解析の問題点 ●ボディの材質

●板の振動
弦の振動に多くのモードが存在する事を述べた。 それは振動可能な周波数とその波形を表わすものである。 極めて複雑なギターのボディの振動を多少なりとも理解するために 矩形板を例にとって考えれみよう。
今2辺の長さがa、bの矩形で周囲が固定されているものとし、 その表面の横振動を厚みのない膜と同一であると考えると、 ↓下の図のような振動モードが可能である。
次にその断面をとり、一つの両端が固定された棒として考えるならば、 下の図↓のような縦振動のモードが可能である。 材料が全く均一であるものとすれば、 以上のような幾何学的方法により振動可能な成分を知る事ができる。
そしてそれらは、多くの機械的または電気的な素子を用いて、 多自由度の等価回路に描かれる。

●ボディの解析の問題点
ソリッド・ボディの形は、演奏を妨げない限り美的感覚に基づいている。 種々の形を有するギターのボディの、その音響特性の良し悪しを 物理的に判断する根拠は何もない。
次に解析を困難なものにしているのは木目である。 木の成長を表わす木目は、全ての自然の気候のみに依存しており、 解析に必要な規則正しさを見受ける事ができない。 材質の密度や弾性など多くの物理的定数は全く不均一さを有し、 概略の値のみしか与えてくれないのである。
以上の理由により、実際のギターの材質は多くの経験による 感覚のみに頼らざるを得ないのである。

●ボディの材質
ボディの材質はギターの音色を変化させる。 固い材質は音が締まりサスティンが長い。 逆に柔らかい材質は音が甘くなるが、サスティンが短い。 一般にボディの材質にはメイプル、ホワイトアッシュ、マホガニー、 アガチス、ランバーコアなどがあるが、特にメイプル、マホガニーが 好んで使用されているようである。下の表↓にそれらの物理的値を示す。 参考のためにスギ、ヒノキとの比較を示している。
メイプル、マホガニーが重いということが良く分かる。 またヤング係数は任意の力に対して材料がどれだけひずむかの 強度を示すもので、大きいほどひずみは少ない。 さらに音響速度は材質の中心の、縦波の伝播速度を示すものである。 ボディに与えられた振動は、内部摩擦によって消費されるが、 空気中に音を放射することにもって減衰する。 その音響幅射による減衰率も示した。 その他、材質の水分の含有率は音響特性に大きな影響を及ぼす。 伝播速度は低下し、振動の内部摩擦による 減衰も著しく増加し、音質は悪化する。 ボディの材質として合板が用いられる場合もあるが、 これは自然によって作られた特有な振動系を平均化することになり、 逆に好みとして敬遠させることもある。 レスポールなどは、表甲にメイプル、裏甲にマホガニーを用い それぞれの持つ特有な性質を引出そうとしている。
以上のようにボディの材質は、音色やサスティンを考慮して、 経験に基づき最良のものを得ようと試みられる。 また中には、ブリッジの下に鉄や真鍮のサスティン・プレートを埋め込み、 さらに音の伸びを良くするように考えられたものもある。

●ボディの振動 ●ボディと弦振動の関連性 ●板の振動
●ボディの解析の問題点 ●ボディの材質

Academic Zone > エレクトリック・ギター > ボディとその他の振動



(C) Copyright 2000. Ishibashi Music Co.,Ltd. All rights reserved.