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●ギブソン・ES335TD


●形状 ●ES335の振動系 ●ES335の電機系


●ギブソン・ES335TD
このES335モデルはセミ・アコースティック・ギターと呼ばれ、 アコースティック・ギターよりも薄い胴でf字ホール付き アーチド・トップ・ボディを有しており、 ボディ形状はダブル・カッタウェイである。 大音量でもソリッド・ギターのようにフィード・バック(ハウリング)無しで、 アコースティック・ギターよりも歯切れ良く、 しかも胴のもつ柔らかなサウンドが得られることを狙って開発された。 ES335のESは"エレクトリック・スパニッシュ"の頭文字である。


○形状
ヘッド、ネック、ボディ共バインディングが施され、白蝶貝製で 長方形のポジション・マークがフィンガーボードに入っている。
ボディとネックの接合はセットネック方式で、 ボディに対し若干の角度を持って接続されている。
ブリッジは"チューン0マチック"タイプ、 テールピースはレスポール・モデルなどについている バータイプのストップ・テールピースを使用しているものと、 ボディ・エンドに取り付けられた"トラピーズ・スタイル"の テールピースを使用しているものがある。
ネック主部はメイプルで、指板にはローズウッド あるいはエボニーが使用されている。
ボディはトップ、バック、サイド共メイプル製で、 ボディ・センターにはネック接合部からボディ・エンドまで 木のブロックが入り、通しネックのような構造になっている。 このブロック上にピックアップ、ブリッジ、テールピースが マウントされている。
ピックアップはハンバッキング・タイプが2個、 それぞれにボリューム、トーン・コントロールがついている。 回路はレスポールとほとんど同じである。 またギブソンにはES335と同じタイプのセミ・アコースティック・ ギターES345SV、ES355SVがある。 SVはステレオ・タイプと呼ばれ、 2つのピックアップ出力がステレオ・ジャックにより、 別々にアウトプットできる回路と、 "バリトーン・スイッチ"と呼ばれるコイルとコンデンサーで 中域をカットできる6ポジションのトーン・コントロール・ スイッチが付いている。 また"マエストロ・タイプ"のビブラート・レバー付のモデルもある。 ES335CTはカッタウェイ部分にもうけられたトグル・スイッチにより、 ピックアップのダブル・コイル片方をアースし、 シングル・コイル・タイプのサウンドが得られるようになっている。


○ES335の振動系
ボディ・センターにはボディ・エンドまで木ブロックが通っており、 このブロック上にブリッジ、ピックアップ、 テールピースが取り付けられている。上の図↑。 レゾネーター部は、生音に低音が少ない事でもわかるように、 アコースティック・タイプよりも高い周波数に共振点を持つ。 さらに、このウッドブロックにより表甲板(トップ)の振動、 特に低域が押さえられる。 このようなボディの利点としては、 操作性の良さもさることながら、 アンプで大音量を出した時に胴がアコースティック・タイプより 共振しにくいため、低域でのハウリングが起きにくい事である。 スピーカーの項で述べるが、スピーカーの指向性は低域ほど広く、 高域ほど鋭い。このため低域がステージ上でまわり込み ハウリングの発生率が高くなっているわけである。 このようにレゾネーター部をもつ電気ギターのアンプからの 音量はハウリングによって上限が決定されてしまう。 同じような原理でピックアップ・カバーや、 ピックアップ・コイル、ピックアップ付きガードなどが 完全に固定されていないと、ソリッド・ギターでも、 大音量時にその共振点でハウリングが起こりがちである。 これを防ぐためピックアップ・カバーを外したり、 カバー内部やコイルに固着材を充填しているものもある。


さてこのブロック上に取り付けられたブリッジにより、 ソリッド・タイプと同じようにサスティンは長くなる。 アコースティック・タイプ・ギターではブリッジからの振動は レゾネーター部である表甲板ではほとんど消費されるため、 生音の音量は大きいがサスティンは短くなる。 しかし、セミ・アコースティックの場合、 この木ブロックの質量により、振動の一部はブリッジで反射され、 サスティンを高めている。 また一部は表甲板に伝わり、レゾネーターを振動させるが、 このボディ振動の一部はさらにピックアップを振動させる。 弦のブリッジ、ボディの圧力は大きいほど、 振動がボディに伝わりやすく、ボディはよく鳴るようになる。 ボディへの圧力はブリッジ、 テールピース間の角度が大きければ大きい。 ES335の場合、トラピーズ・タイプのテールピースよりも ストップ・テールピースの方が圧力は強くなり、 またウッドブロックの質量のため、ボディからの反射が多く、 サスティンも長い。
トラピーズ・タイプの場合、弦の角度が浅いため 弦振動の一部はブリッジを通過し、テールピース、 ブリッジ間の弦で共振が起るが、これを防ぐために フェルトをこの部分に入れる場合もある。 左の図←のトラピーズ・タイプのテールピースの利点は 張力の強い弦でもタッチを柔らかく感じさせてくれる事と、 弦の全長、つまりチューニング・マシンから テールピースまでの実効距離が長いためにチューニングが 狂いにくい事である。 しかし上記のように、サスティンは短く、 同じチョーキング時でも周波数変化が少ない。
ストップ・テールピースの場合、わずかな量であるが ブリッジとテールピースの両方から振動がボディの 比較的近い場所に伝わるため振動の干渉が起きやすい。 トラピーズ・タイプでは、このような複雑な干渉は起きにくい。 この点、フォーク・ギターや、フェンダー・タイプの ブリッジはテールピースと一体化しているため、 このような振動干渉は起きにくい。 これらのテールピースの特長は演奏テクニックや 好みの問題とされている。



○ES335の電機系



ES335の回路を左の図←に示す。 同じタイプのES345、355SVは、フロントとリアのピックアップ出力が、 ステレオ・ジャックおよび2芯シールド・ケーブルで 別々に取り出せるステレオ回路や↓下の図に示す 6段のバリトーン・スイッチが特長になっている。 これはLC共振回路のコンデンサー容量を変化させる事により、 ピックアップ出力の周波数帯域の一部を減衰させて 音色を作りかえるトーン・コントロ−ルで、 その中心周波数はそれぞれ約7.1kHZ、4.1kHZ、2.3kHZ、 1.3kHZ、480HZである。 しかし実際には、ピックアップ・ボリューム、トーン・コントロール、 線間容量が接続され、これらの合成値となるため、 周波数、Q値、レベル共、より複雑な動作である。

ES335CTタイプは右の図→のようにトグル・スイッチで ハンバッキング・ピックアップのコイルの一方をショートさせ、 シングル・コイルのピックアップになるようにできている。 こにょうに接続されると、インピーダンスが半分になり 出力レベルは小さくなるが高域は出やすくなる。 しかしピックアップの電気回路はハンバッキングと変わらないため、 一般に言われるシングル・コイルのサウンドにはなり得ない。 以上のようにトーン・コントロール系が他のモデルに 比較して複雑なのは、やはりサウンドの個性が レゾネーター部によるところが大きいため、 より変化のあるサウンドを求められるからであろう。

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