Dr.藤野  ドクター藤野のリペアー講座

アコースティック・ギター・ピックアップの話
●AGピックアップの話 その1

 今回より、アコースティック・ギター用のピックアップについて書いてみた いと思います。アコースティック・ギターをお持ちの方で、ライブ・ステージ用に ピックアップの取り付けを考えられている方は多いと思います。そういった方への ヒントになれば幸いです。まずは、アコースティック・ギターのピックアップの種類 についてから。

 アコースティック・ギターに使われるピックアップは大別すると三種類と言われてい ます。エレキ・ギターのピックアップと同じ構造のマグネティック・ピックアップ、 マイクロフォンを小型化した構造のエア・マイク、ボディの振動を拾う圧電ピック アップの三つです。それぞれ一長一短があり、簡単に優劣を語ることはできません。 また、それぞれの短所を補うため、それらのピックアップを複数併用する例もあり ます。では、次にそれぞれの特徴を簡単に述べてみましょう。

 マグネティック・ピックアップは、構造上ギター・アンプで鳴らしやすいタイプの ピックアップと言えるでしょう。なお、アコースティック・ギターの弦の巻き弦は 一般的にブロンズ、フォスファー・ブロンズなどを使いますが、マグネティック・ タイプのピックアップでは、そういった弦では適正なバランスをとりづらい場合が あります。エレキ・ギターと同じニッケル弦を使うと良いでしょう。例を挙げると、 古くからあるエレアコのGibson J-160E。このギターはエレキ・ギター用のピック アップを使用しているので、こういった場合、例えば.012(1弦)-.053(6弦)位のゲー ジのエレキ・ギター弦を張るといった具合です。

 エア・マイクは、感度の良いコンデンサー・マイクを使用していることがほとんど です。ボディ内部の空気の振動を拾うため、自然に近い音が求められると言えます。 ただし、アンプやモニター・スピーカーの近くで演奏すると、フィードバック(ハウ リング)に悩まされることがあります。そういったこともあり、取り付け位置の設定 が難しいタイプとも言えましょう。

 圧電ピックアップはピエゾ・タイプが有名ですが、ピエゾとは振動を電流に変える 素子のことです。オベーション、タカミネに代表される一般に良く耳にするエレアコ ・サウンドは、このピエゾ・ピックアップによるものが多いと言えます。ブリッジ下 に埋めるタイプもあれば、ボディ表面などに両面テープで簡単に取り付けられるもの もあります。ただし、音質やバランスを考えると、取り付けはややデリケートな作業 になります。また、ほとんどの場合プリアンプが必要となります。プリアンプについ は後日お話したいと思います。

 どのピックアップを使用するにしても、ピックアップ及び出力ジャックの取り付け位 置、取り付け方法の選択も、課題となりましょう。ピックアップの選択において、そ ういった点もよく吟味する必要があると言えます。


●AGピックアップの話 その2

 今回は、お手持ちのアコースティック・ギターを加工することなく、比較的容易に取 り付けられるタイプのピックアップという視点からお話してみたいと思います。

 まず、ひとつはマグネティック・ピックアップです。 前回お話したようにエレキ・ギターのピックアップと同じ構造で、マグネットとコイ ルで構成されています。そんなこともあって、セイモア・ダンカン、ディマジオ、 レース・センサー、EMG、ビル・ローレンスなど、多くの有名なエレキ・ギターの ピックアップ・メーカーから発売されています。

 当然ながら、弦が磁石に良くつく素材でできていること=スティール弦であることが 前提です。このタイプのピックアップの場合、ワウンド(巻き)弦が、アコースティッ ク・ギターに一般に使われているブロンズ弦(黄っぽい色)、フォスファー・ブロンズ 弦(赤っぽい色)では、プレーン(裸)弦との音量バランスが悪くなること(プレーン弦 の音が大きくなる)が考えられます。その場合、エレキ・ギター同様のニッケル弦 (銀色)を使いましょう。ただし、ブロンズ弦やフォスファー・ブロンズ弦に対応さ せているマグネティック・ピックアップもありますので、取扱説明書に従って弦を 選んでください。

 マグネティック・ピックアップはサウンドホール部に取り付けるのが一般的で、表面 板を脇で挟み込むような構造のものがほとんどです。そのため取り付け、取り外し が楽です。またピックアップから直接シールド・ケーブルが出ているものが多く、ア ンプやPA機器との接続も楽です。

 もうひとつ便利なのは、貼りつけるタイプのコンタクト・ピックアップです。 ボディの振動部分=一般的に表面板のブリッジ部近辺に、付属の両面テープやパ テなどで貼りつけるようになっています。ベストな取付場所は商品によって異なる ので、取扱説明書に従って適切な場所に貼るようにしましょう。このタイプは、ケー ブルに接続するジャックがついているケースがほとんどですが、ジャック部分にハ ンダ付け作業を要求される機種ものもあります。ハンダゴテをお持ちでない方は、 お買い上げ時に確認するようにしましょう。そしてケーブルでアンプやミキサーに 接続します。もっとも、このタイプは出力が小さいため、ほとんどの場合プリアンプ を挟む必要があります。プリアンプを使わないと、ゲインが稼げなかったりノイズが 乗りやすくなったりします。

 マグネティック・タイプとコンタクト・タイプの音の特徴ですが、前者は「弦」の要 素が反映された音、後者は「ボディの板」の要素が反映された音と言えるでしょう。 前回も書きましたが、現在のところ、アコースティック・ギター用にピックアップ・ システムは、どれがベストという結論は導き出せない状況にあります。どこかで妥協 は必要です。お好みのものを見つけるまでには、時間や費用を要しますが、いくつか 試してみることが必要かもしれません。


●AGピックアップの話 その3

 第三弾は、プリアンプについてのお話です。 アコースティック・ギターにピックアップさえ取り付ければ、エレアコ化 完成と思われている方もいらっしゃるかも知れませんが、そうではありません。一部 例外的なものもございますが、ほとんどの外付けアコースティック・ギター用ピック アップはプリアンプと組み合わせて使った方が良いと言えます。

 ピックアップによって出力はまちまちですが、多くの場合ピックアップ自体の出力は 微弱のものが多くなっております。そのまま、PAやアンプに接続すると、ゲインが 稼げなかったり、ノイズが乗りやすかったりすることがあります。プリアンプは、オ ーディオ・レベルまでゲインを上げ、また音質を整える役割を担います。

 近年、出力面だけで言えば、プリアンプが不必要なものも出てきてはおります。し かしながら、ライブ時にステージ上でボリュームやトーンをリアルタイムに操作した いときはプリアンプが威力を発揮します。ギターそのものに加工を施して内蔵して しまうプリアンプもございますが、工賃も含めると高価であり、またそれ以前に大 切なアコースティック・ギターのボディに穴をあけることになりますので、誰にでも お勧めできるものではありません。そこへ行くと、外付けのプリアンプであれば、安 価なものは国産で数千円、海外ブランド品でも一万円台で購入できるものもありま す。

 また、ピックアップで拾ったエレアコ・サウンドを、よりアコースティックなサウン ドに変化させ、空間係エフェクターやフィードバックを押える機能までも内蔵したエ レアコ専用プロセッサーも出ております。もちろん、そういったエレアコ用プロセッ サーもプリアンプの役割を持っています。 なお、FishmanやL.R.Baggsのように、ピックアップ・メーカーがプリアンプを発売 している場合、同じメーカーのプリアンプは自社のピックアップにベスト・マッチン グとなる設計になっています。メーカーを揃えるとより心強いと言えます。 さらに、ピエゾとマグネティック、ピエゾとコンデンサー・マイク、マグネティック とコンデンサー・マイクといったように、より自然でリアルな音を追求して、複数の ピックアップを組みあわせてお使いになる場合に、それらをブレンドする機能もつい たプリアンプもございます。

 この様に、ピックアップ同様、好み、目的、予算に応じて、プリアンプの選択肢も 色々考えられます。不明な点があれば販売員に相談ください。


●AGピックアップの話 その4

 さて今回でアコースティック・ギター・ピックアップの話の最終回です。 今回はフィードバック(ハウリング)の対処法について書いていきましょう。 ライブ派の方への実践編です。

 まずフィードバックについて簡単に説明しておきましょう。スピーカーから出た音 を、再びマイクやピックアップが拾ってしまい、ピーとかブーンという音でループが かかったように増幅してしまうことです。ソリッド・ボディのエレキ・ギターではお こりづらいフィードバックですが、エレアコ(ピックアップを取り付けてエレアコ化 したアコースティック・ギターを含む)の場合は、箱状の胴が共鳴するため発生しや すいと言えます。ライブ経験者であれば、たぶんフィードバックの経験はおありでし ょう。もっとも、スタンドに付けたマイクロフォンを使ってギターの音を拾う場合と 比べればギター用のピックアップの方がフィードバックには強いといえます。マイク ロフォンは周りの他の音まで拾ってしまうことがあり、それがフィードバックの原因 となることもあるからです。エレアコの場合は、経験と要領でフィードバックを回避 したり低減させることが可能です。

 既成のエレアコならプリアンプは楽器に内蔵されている例がほとんどですし、アコ ースティック・ギターにピックアップを取り付けてエレアコ化したギターの場合でも、 前回お話したようなボリュームやイコライザーのついたプリアンプを手近なところに 準備しておけば、本番中でもいざとなったら音量や音質を調整できます。もちろん、 繰り返し出演しているライブ会場など、PAオペレーターとうまくコミュニケーション がとれる環境なら、万一本番中フィードバックが発生してもオペレーターが的確に 対処してくれるでしょう。しかしながら、大勢のアマチュア・バンドが出るようなイ ベントの場合、プロのオペレーターであってもそうもいかないことがあります。フィ ードバック発生時に限らず、音量、音質の微調整ができるのがエレアコのメリットと 言えます。ただし、サウンド・チェック時よりボリュームを極端に上げてしまうのは よしましょう。モニターしづらい場合は、オペレーターにギターの音の返りを増やす よう指示しましょう。手元であまりいじり過ぎると、客席側の出音のバランスが変わ ってしまうからです。

 前後しますが、まずなるべくサウンド・チェックの際にフィードバックしやすい楽器 から音決めをします。電気楽器とエレアコのアンサンブルの場合、電気楽器の音量を 先に大き目に決めてしまうと、それにあわせた音量でエレアコを鳴らそうとするとフ ィードバックが起きやすくなると言えます。また立ち位置でもフィードバックの発生 の仕方が変わってきます。エレアコは自由にステージ上を歩きまわれるメリットが ありますが、狭いライブハウスのステージなどでは、自由度が多少限定される場合 もあるとお考えいただくのがよいでしょう。サウンドチェック時にギターを鳴らしな がらステージの上を移動し、フィードバックのおきにくいポジション、おきやすいポ ジションを把握しておきましょう。

 またサウンド・ホールを塞ぐという手段も古くから使われています。サウンド・ホー ルに取り付けるタイプのマグネティック・ピックアップには不向きですが、そうでな い場合には効果的です。一昔前は、厚紙などでサウンド・ホールを覆いテープで留め るというようなやり方をしていましたが、現在ではエレアコ用サイレンサーなどと称 した既製品も出ております。ご自分のギターのサウンド・ホールの形状、サイズに 合ったものを選びましょう。

 さらに最近ではエレアコ専用プロセッサーやプリアンプにアンチ・フィードバック機 能を備えたものも増えてきました。フィードバックが発生したとき、自動的にその周 波数域を検知しカットするしくみです。音域によっては、音の美味しい成分も幾分カ ットされてしまう場合もありますが、ライブ現場での使い勝手は抜群と言えます。一 度試してみる価値はあるでしょう。

 以上、愛用のアコースティック・ギターにピックアップを取り付けて、晴舞台にのぞ む方への参考になれば幸いです。

 話は変わりますが、昨年末、当社のホームページの アカデミック・ゾーンに新しく加わりました 「ミュージシャンのための簡単なギター調整」 というページはご存知でしょうか。友人の寺田仁氏のサイトで、非常に為になる情報満載です。 興味がございましたら、是非一度チェックしてみてください。

(C) Copyright 2004. Ishibashi Music Co.,Ltd. All rights reserved.